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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.08.12]

ルジマトフとフィリピエワが踊った極彩色に彩られた皆殺しのバレエ『シェヘラザード』

バレエの神髄 2013
ルジマトフ、吉田都、岩田守弘、フィリピエワ、キエフ・バレエ団

2011年につづいて「バレエの神髄 2013」が上演された。ファルフ・ルジマトフを中心に吉田都、ロシアのブリャート・バレエ芸術監督に就任した岩田守弘、マリインスキー・バレエ団のエレーナ・エフセーエワ、そしてキエフ・バレエを代表するバレリーナ、エレーナ・フィリピエワとキエフ・バレエ団のダンサーたちによる公演である。
第1部はカテリーナ・クーハリ、オレクサンドル・ストヤノフ、キエフ・バレエ団のダンサーが踊る『パキータ』。クラシック・バレエの豪華さが踊られた舞台だった。
今回、ルジマトフは3作品を踊ったが、まずは『帰還』。ルジマトフ自身がこの公演のためにサンクトペテルブルクのフリーの振付家ウラジーミル・ロマノフスキーに委嘱したという。戦地から帰還する兵士を描いたものだそうだが、ルジマトフの引き締まった身体が発する悲哀が浮かび上がったのを観たように感じた。エレーナ・エフセーエワとキエフ・バレエ団のセルギイ・シドルスキーが『ドン・キホーテ』のパ・ド・ドゥを踊ったのち、フィリピエワが『瀕死の白鳥』を披露。言わずと知れたアンナ・パヴロワ、マイヤ・プリセツカヤと踊り継がれてきた----しかし、その間には大きな変化があった----珠玉のバレエだ。プリセツカヤが期待を寄せるバレリーナ、フィリピエワによる見事な演舞だった。第1部の最後は、『海賊』よりパ・ド・ドゥを岩田守弘がワガノワ・バレエ学校卒業後マリインスキー・バレエ団に入団、その後キエフ・バレエ団にソリストとして移籍したエリザベータ・チェプラソワと踊った。

第2部はキエフ・バレエ団の芸術監督を務めたことのあるアナトリー・シェケロ振付による『ロミオとジュリエット』バルコニーの場面。カテリーナ・クーハリとオレクサンドル・ストヤノフが踊って幕が開いた。つづいてエレーナ・エフセーエワがウラジーミル・ワシーリエフ版『白鳥の湖』の「ルースカヤ」を踊った。パヴロワもしばしば踊ったが、近年のロシアや英国の『白鳥の湖』では踊られなくなったディベルティスマンだ。
岩田守弘は現在、自身が芸術監督を務めるブリヤート共和国の首都ウラン・ウデ縁りのソロ作品『ナヤン・ナヴァー』を踊った。同地出身のマリインスキー・バレエ団のダンサー、ピョートル・バザロンの振付により故国への深い想いを踊った。
吉田都はキエフ・バレエ団ダンサー、シドルスキーとブルノンヴィル版の『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥ。正確なステップが妖精の軽やかさを見事に表わした素敵な踊りだった。そして、ルジマトフの『ボレロ』。モーリス・ラヴェルの有名な曲にモイセーエフ・バレエ団出身のニコライ・アンドロソフが振付けたもの。キエフ・バレエの女性ダンサーとともにルジマトフの「特別な身体」が独特のリズムを刻み、メロディを滑らかに踊った。

tokyo1308c02.jpg 「シェヘラザード」写真提供/光藍社

第3部は今公演の最大の呼び物ミハイル・フォーキンがバレエ・リュスに振付けた『シェヘラザード』全1幕。ルジマトフとフィリピエワが踊った。
リムスキー=コルサコフの音楽にミハイル・フォーキンが振付け、バクストが美術を作り、ニジンスキーが金の奴隷を踊って、バレエ・リュスの名作揃いの初期作品の中でもたいへんな人気を集めた舞台だ。
私はマリインスキー劇場の国際バレエ・フェスティバルで行われたルジマトフ・ガラでこの舞台を観たが、イザベラ・フォーキンとアンドリス・リエパが復元した、とクレジットされていた。今回は、オープニングでは前奏曲のように曲だけを流していたが、私の記憶では、この部分はハレムの長とゾベイダの日常的になっているのであろう、酒池肉林の有り様が演じられる。下手に洞窟のようなふたりの寝所が設えてあり、その上には籠の鳥か置かれていた。宦官もふたりいて盛んにうろついて異様な雰囲気を醸していた。オダリスクの数は覚えていないが、バクストの美術が強烈で、細部に至るまで豪華絢爛だった。幕が開いて地獄絵のような極彩色の劇空間が眼前に広がった時の鮮烈な印象は、いまだに忘れることができない。そこでは強烈な色彩が、ダンサーとともに皆殺しのバレエのプロローグを踊っていた。今回、こうしたオープニングのパフォーマンスは省かれていたが、ダンサーはルジマトフとフィリピエワでありもちろん遜色はない。とりわけルジマトフは50歳とは思えない力感あふれる踊りだった。全幕はもう踊らないとも聞くが、健在ぶりを充分にアピールした。フィリピエワは肌を曝すのは控えたようだが、独特の魅力を存分に発揮していた。ただ、ラストの殺されたルジマトフ扮する金の奴隷の死体を前にして演じられた芝居は、ゾベイダは金の奴隷との愛に生きたわけではなく、囚われて愛されるより自立して生きる道を選んだ、と私には感じられた。
(2013年7月13日 文京シビックホール)

tokyo1308c01.jpg 「シェヘラザード」写真提供/光藍社