ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.08.12]
最近は特に、夏休みのジュニア向けのバレエ企画が多くかつ充実している。それぞれのカンパニーが未来のバレエダンサーに向けて、一番魅力的なレパートリーやスターダンサーを中心にした舞台を創っている。そのためか近年は、本公演が顔負けするくらいのファミリーを主体とした集客を見せるカンパニーもある。そして公演会場がまた熱い。見事に踊ったダンサーにはみんなじつに素直に、ピュアな気持ちから歓声をあげている。これ見よがしの「ブラボー!」などはないから、気持ちよくバレエを心から楽しむことができる。そしていつも感じることは、とにかく「日本人のバレエを踊るエネルギーは凄い!」ということ。だから私はいつも夏が来ると元気づけられる。
日本のバレエの将来は大きな可能性を秘めているに違いない、と。

小野絢子と菅野英男、寺田亜沙子と奥村康祐、それぞれが魅力的に輝いた『ドン・キホーテ』

新国立劇場バレエ団
『ドン・キホーテ』アレクセイ・ファジェーチェフ:改訂振付、プテイパ、ゴルスキー:振付

新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』はゴルスキーに基づいたファジェーチェフ版。ニーナ・アナニアシヴィリも踊っていたヴァージョンで、ドン・キホーテとサンチョパンサとともに本物の馬が扮したロシナンテが登場することもあった。

tokyo1308a_2178-s.jpg 撮影:瀬戸秀美

全体のシーン構成としては、狂言自殺のあとに、ドン・キホーテとジプシーたちのシーンとなり、森の中の幻想へと続いていく。そこには最初から主人公のバジルとキトリの二人は登場しない。ドン・キホーテは二人の結婚に加勢した実際の現実とジプシーたちの芝居の世界を混同して意識が混乱。突如、風車を巨大な敵と見誤って突っ込む。この一連のシーンでは、主役はドン・キホーテとなっていて、森の中の幻想シーンでは、本来わき役のドン・キホーテの人物像が描かれている。そのため、許されない結婚に奮闘努力する二人の主人公の物語と話が二つに分かれてしまうような気がしないでもない。
また、居酒屋のシーンは、民族舞踊の闊達を楽しむというより、スペイン情緒をショーアップして見せる、というミュージカル的なアレンジがほどこされていた。さらに、ドン・キホーテは狩りに来ていた公爵夫妻に助けられ、経緯を話す。すると公爵夫妻のはからいにより、バジルとキトリは公爵の大邸宅で晴れて結婚式をあげることとなり、大団円のうちに幕が下りる。
街の床やの若者と宿屋の娘という市井の恋人たちだった二人は、貴族の舘で豪華絢爛の結婚式をあげることとなる。これはもちろん狂言ではないから、ドリームといえば確かにドリームだろう。
おきゃんで明るく機転がきくところが魅力のキトリ。恋人の父親に拒絶されてもめげずに、恋を成就させるために愛すべき努力を重ねるバジル。庶民を主人公とした物語のエンディングにしては、いささかご褒美が大きすぎるような気がしないでもないが、物語は完結し大団円にいたる。床屋を表す表現もここではほとんど捨象され、わずか、狂言自殺にカミソリを用いるところのみ、となっていた。

tokyo1308a_0052-s.jpg 撮影:瀬戸秀美

キトリを踊った小野絢子、バジルを踊った菅野英男はともにきっちりとした端正な踊り。全体の踊りのラインも丁寧に破綻なくまとめられていた。舞台を見終わった後も、泰西名画をたくさん鑑賞した時のような豊かな情感が心に残った。小野は終始にこやかでとてもチャーミング。さすがに落ち着いた素敵な舞踊表現だった。           
寺田亜沙子のキトリ、奥村康祐のバジルもみたが、こちらは若さが溢れるエネルギーが舞台に漲り、爽やかだった。寺田は手足が長くスタイル抜群。ちょっと茶目っ気を感じさせるキャラクターでなかなかチャーミングだった。奥村も主役は初めてというのが意外に思えるくらいに、堂々として舞台に馴染み迷いのない明快な踊りだった。このフレッシュなコンビは、今後、大いに期待が持てそうだ。
(2013年6月23日・30日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1308a_1744-s.jpg 撮影:瀬戸秀美 tokyo1308a_2614-s.jpg 撮影:瀬戸秀美