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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.07.10]

古典バレエの格調の高さを保持した『白鳥の湖』を青山季可と菊地研が踊った

牧阿佐美バレヱ団
『白鳥の湖』三谷恭三:演出・振付

牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』は、青山季可がオデット、オディール、菊地研がジーグフリードを踊り、ロットバルトは森田健太郎が踊った。チャイコフスキーの音楽は、東京ニューシティ管弦楽団をキエフ市立アカデミー・バレエ・オペラ芸術劇場のアレクセイ・バクランが指揮した。
以前から牧阿佐美バレヱ団のレパートリーとなっていた、テリー・ウェストモーランド版に基づいて三谷恭三が演出・振付けている。ウエストモーランド版は原典のプティパ/チャイコフスキーのヴァージョンを調べ、初期の作者が描こうとした趣旨を可能な限り尊重して創っている。とはいえ日本初演されたのは1980年であり、既に30年以上を経て変化の激しい今日の時代とはいささか合わない面もある、と思われる。その辺りは三谷恭三の振付・演出が補いかつ清新さを加えようと試みている。
むろんその振付の格調の高さは、今日から見てもじつに堂々としている。たとえば第三幕のオープニングは、ヴァージョンによっては、道化のソロヴァリアシオンだったり、花嫁候補たちの踊りだったりするのだが、三谷版では生きのいい男性ダンサー(坂本春香、中川郁、上原大地、清瀧千春)に力強いパ・ド・カトルを踊らせて、王子の花嫁選びの儀式を格式高くしかも華やかに印象付けた。
また第四幕は見事なフォーメーションをドラマティックな展開に即した正確なテンポで変容させて、愛の悲劇の序曲としての優れたシーンを創った。ここはさらに、バクランの指揮が盛り上げ、オデットが死を選び、続いてジークフリートが命を断ち、粛々としたアポテオーズにいたるまで、荘厳な悲劇の時間が舞台を支配した。
青山のオデット、オディールは、しっかりと踊り見事だったが、表現はやや弱いのではないか、と思われるパートもあった。たとえば、ラストのオデットが自ら死に向かう表現は、いわばこの作品の重要なポイントであり、もっと過剰なくらいオーバーで明快であってもよい、と思った。第三幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、はっきりと踊っていたが、この重大な決定にあたっては、決然として観客の心を鷲掴みにするくらいの気持ちを込めた表現がほしいと思う。菊地のジークフリートとの愛の葛藤も意外とあっさりしているようにも見えてしまい残念だ。
菊地のジークフリートは良く踊った。彼は王子役に相応しい容貌だが、しかしそれを十二分に活かし切っているだろうか。菊地であればもっとノーブルな雰囲気がだせるはずだ。このペアは少し遠慮しているのではないか、と思われることもあった。泥くささを恐れず、思い切った表現にも挑戦して欲しいなどと、勝手ながら思ってしまった。
とはいえ、第3、4幕の演出は、ほぼ完璧といってもいいほど、古典的な格調を保持したもの。その点、今日では貴重なヴァージョンである。
(2013年4月15日 ゆうぽうとホール)

tokyo1307b.jpg 「白鳥の湖」青山季可、菊地研 撮影/山廣康夫