ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2013.06.10]

マラーホフが自身の "現在" を踊って観客に伝えた≪贈り物≫ファイナル公演

《A Gift From Malakhov Final》
《マラーホフの贈り物 ファイナル!》
【Program A】“The Dying Swan” by Mauro de Candia, “Die Kameliendame” pas de deux from Act 3 by John Neumeier, etc
【プログラムA】『瀕死の白鳥』マウロ・デ・キャンディア:振付、『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ ジョン・ノイマイヤー:振付、ほか

バレエ界の繊細な貴公子、ウラジーミル・マラーホフが企画する≪マラーホフの贈り物≫が、第8回の今回で幕を下ろすという。1996年からほぼ隔年の開催で、注目の中堅や新鋭ダンサーを招き、古典から話題の振付家作品まで多彩な演目を提供し、自身の新たな境地を披露してもきた。今回は“ファイナル! だけに期待したが、Aプロでは、最初に発表された『ジゼル』第2幕が『白鳥の湖』第2幕に変更されたことは告知済みだったが、来日後にマラーホフが左脚ふくらはぎに違和感を覚えたため、踊る度に異なる味わいを見せたソロ作品『ヴォヤージュ』(Bプロでは踊られた)が『シンデレラ』に変わった。最後にソロの『瀕死の白鳥』を追加したが、これはあるいは “サプライズ”として用意していた演目だったかもしれない。

tokyo1306b01.jpg Photo:KionoriHasegawa

トップバッターはマラーホフで、ボリショイ・バレエの新進オリガ・スミルノワと組み、『白鳥の湖』第2幕よりを東京バレエ団の群舞付きで上演した。マラーホフは王子の気品を漂わせて登場したが、スリムだった上半身のふくよかさには驚かされた。グラン・アダージョでは、スミルノワの演じるオデットと心を通わせようとするが、彼女があまりに無表情だったこともあり、しっくり噛み合っていなかった。すらりと美しい体型のスミルノワは優雅に腕や脚を操ったが、もっぱら振りに専心しているようで、オデットの心は伝わってこなかった。これからのバレリーナなのだろう。
続いてはミュンヘン・バレエ団のルシア・ラカッラとマーロン・ディノのペアによるラッセル・マリファント振付『トゥー・タイムス・トゥー』。シルヴィ・ギエムの演技が評価を高めた『Two』の、二人のダンサーのためのヴァージョンである。暗い舞台の下手後方で、ラカッラが揺り動かす腕や体が照明の中に浮かび上がり、やがて上手前方で踊るディノの姿も照らされ、二人はユニゾンで踊ったり、ずらして踊ったり、軌跡を描くように腕を振り回したり、瞬時も止まることなく濃密な異空間を築いていった。
日本で人気上昇中のシュツットガルト・バレエ団のマライン・ラドメーカーは、エドワード・クルグが彼のために振付けたソロ『ギルティ―』を踊った。本来は、同じバレエ団のマリア・アイシュヴァルトと組んで2作品踊る予定だったが、21日の公演当日の到着になったため、デュエットは1作品にして、代わりにラドメーカーが踊ったのがこれだった。ショパンのノクターン第1番にのせて、カジュアルな服装の若者のせわしない動きが、心の内を映し出したようで面白かった。
マラーホフは前半でもう一つ、東京バレエ団の吉岡美佳と組み、エジプトの王子アクメと妖精の女王ペリの愛の物語を綴ったマラーホフ版『ラ・ペリ』よりパ・ド・ドゥを踊った。だが、短いボレロの下からはみ出したようなブラウスや膝丈のタイツの上にはいたプリーツスカートが、マラーホフの体型をカバーするどころか逆に太い腕や腹回りを目立たせてしまい、吉岡が心を通わせようとしていたのは感じたが、ロマンティックな雰囲気は消えてしまった。ここでもマラーホフはサポート役で、短い場面に見せ場はなく、リフトが心もとなく見えた時もあった。
前半の締めは、ベルリン国立バレエ団のヤーナ・サレンコとディヌ・タマズラカルで、『海賊』の第1幕より奴隷商人ランケデムとギュリナーラのパ・ド・ドゥを踊った。爽やかな白いコスチュームが二人のスリムな身体の動きを引き立て、跳躍や回転技をよりダイナミックに見せていた。

tokyo1306b02.jpg Photo:KionoriHasegawa tokyo1306b03.jpg Photo:KionoriHasegawa tokyo1306b04.jpg Photo:KionoriHasegawa

後半の最初もマラーホフで始まった。自身が手掛けた『シンデレラ』よりのワンシーンで、楚々として伸びやかに踊るサレンコを控えめにサポートしていた
。アイシュヴァルトとラドメーカーが踊ったのは、ハンス・ファン・マーネン振付『フランク・ブリッジの主題による変奏曲』(音楽:ベンジャミン・ブリテン)。上はタンクトップ風の総タイツで現れ、緻密に組み立てられたシャープな振りを息もつかせぬ連携プレーで展開し、ラドメーカーのソロを含め、緊迫感で舞台を引き締めた。
タマズラカルは『レ・ブルジョワ』(振付:ヴェン・ファン・コーウェンベルク、音楽:ジャック・ブレル)で、酔っぱらった男のふてくされた内面を、自身の持てる技を駆使して軽妙なステップやジャンプで表した。踊り続ければ、また違う味わいが備わりそうだ。
見応えがあったのが、ラカッラとディノによる『椿姫』(振付:ジョン・ノイマイヤー)より第3幕のパ・ド・ドゥ。細身のラカッラの繊細で儚げな仕草と、長身で逞しいディノの朴訥とした態度が噛み合い、抑えきれない互いの情熱を何ともドラマティックに表出した。
幕開けで『白鳥の湖』第2幕よりを踊ったスミルノワは、今度は同じボリショイのセミョーン・チュージンと組んで“黒鳥のパ・ド・ドゥ”を踊った。スミルノワは手堅く演じたものの、シングルで回っていたフェッテで踵が落ちてしまったのは残念。でも、すぐ立ち直って回り始めたのはさすが。チュージンはジャンプの後で着地が乱れるのが弱点だが、総じて卒のない演技で、最後はダイナミックなマネージュを見せた。
公演を締めくくったのはマラーホフの『瀕死の白鳥』。マウロ・デ・キャンディアが男性ダンサーのために振付けたソロ作品で、前にも踊ったことがある。短パン一枚で現れたマラーホフは、身体と共に魂もさらけ出すように演じた。翼のように腕を動かし、あらがうように身をくねらせ、床を転がるなど、死に向かう苦悩や命の儚さをにじませた演技に、彼が現在置かれている状況がダブってしまい、心を打たれた。
《贈り物》は今回で最後とアナウンス済みとはいえ、ダンサーとして40代半ばを迎えていることや、それに加えて、ベルリン国立歌劇場バレエ団の芸術監督に始まり、新たに組織されたベルリン国立バレエ団の芸術監督としても輝かしい実績を挙げてきたにもかかわらず、今年に入って急きょ2013/14シーズンでの退任が決まるなど、舞台に臨む心境には複雑なものがあったに違いない。ただ、マラーホフは引退するつもりはないと言っているので、今後は、自身にふさわしい作品と取り組み、彼ならではの円熟味を増した舞台を見せて欲しいと思う。
(2013年5月21日、東京文化会館)

tokyo1306b05.jpg Photo:KionoriHasegawa tokyo1306b06.jpg Photo:KionoriHasegawa tokyo1306b07.jpg Photo:KionoriHasegawa