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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.03.11]

首藤康之が兵士を見事に演じ小尻健太の悪魔が躍動した、中村恩恵振付『兵士の物語』

2012 ART DANCE KANAGAWA No.9
『兵士の物語』中村恩恵:振付

ART DANCE KANAGAWAの9回目は、中村恩恵が振付けたイーゴリ・ストラヴィンスキー作曲の『兵士の物語』。この作品はストラヴィンスキーがロシア革命によって領地を失い、経済的苦境に陥った第1次世界大戦後に、小規模の楽器編成と小劇団でもツアーできる作品として構想されたもの。音楽は世界的にも流行しつつあったラグタイムやジャズ、タンゴなどの要素を取り込んで作曲されている。テーマもまた、大戦後の人々の心境に沿うように、人間の幸せの物質的繁栄と心の問題を取り上げている。物語はロシア民話の基づいていて、故郷に帰るヴァイオリンを愛する兵士が悪魔と出会い、未来を書いた本とヴァイオリンを交換しないか、と持ちかけられて始まる。その後は兵士と悪魔のやりとりの中に、故郷がでてきたり、病に伏した王女を助けたりする話が展開していく。

兵士は首藤康之、悪魔は小尻健太、王女を中村恩恵、ヴァイオリンの精は渡辺レイ、王を後藤和雄というキャスト。首藤は柔軟性に優れた身体を充分に生かし演技・表現力が際立った見事な踊り。小尻は身体性に優れ敏捷で悪魔のずる賢さを身体表現で巧みに表した。コール・ド・バレエとして数字の精(これは人間が陥る計算高さを表しているのか)、故郷の人々、宮廷の人々が登場する。このコール・ド・バレエを上手く動かし、2重3重に暗幕を舞台上で閉じたり開けたりして、物語を重層的に展開しようとしていた。とにかく劇場が演し物の性格以上に大きいので,演出には様々な工夫が要求される。
幕開けは、故郷の人々と兵士のアン・ドゥ・トロワのリズムに乗せて進む行進。これだけでも作品自体がリズムにのっていることが感じられる。そしてこの行進こそが人生と呼ばれるものだろう。中村の女王は出番は第2幕だけだったが、さすがにこの舞台に相応しい存在感があった。
「一つの幸せですべてが幸せとなる。二つの幸せを望めば、すべてがなくなる。」というテーマに、説得力を持たせることに成功した、と感じられた公演だった。
この『兵士の物語』は、語り手と兵士と悪魔が登場人物として書かれている。しかし、中村の演出は、語り手が劇中に現れるこの物語を、その語りの部分をすべてフランス語のナレーションで流した。そしてダンサーの振りと物語を連動させた。簡単に言えばナレーションを音楽あるいは音響効果としても使った。もともと朗読と演劇と舞踊を連動させた音楽劇だから、音楽そのもののインパクトはさほど強くはない。その意味では、フランス語のナレーションに、音楽のように劇的効果を強化する役割を与えて、上手く収まっていた。私などはフランス語は分らないが、音がきれいだし、たとえ意味は汲み取れなくても問題はなくむしろ心地良かった。こうした決断ができることもまたひとつの才能だ、と思う。コクトーは自らが語り手を務めて、発言をそれぞれの役に当てはめたヴァージョンを創っているそうだが、中村演出もひとつの方法であり、私は成功していると思う。

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「兵士の物語」撮影:大河内禎(すべて)