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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2013.01.10]

ベジャールがダンサーになったきっかけを知る興味深い作品

東京バレエ団
『くるみ割り人形』モーリス・ベジャール:振付

各バレエ団によるプティパ/イワーノフやワイノーネンの版に基づく『くるみ割り人形』の上演が相次ぐクリスマス・シーズン、東京バレエ団は自伝的要素が濃厚なベジャール版『くるみ割り人形』を取り上げた。〈モーリス・ベジャール没後5周年記念シリーズ〉の第一弾として上演したもの。ダブルキャストの二日目を観た。

tokyo1301b_0845.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

ベジャールの写真が吊るされ、ビムと呼ばれた少年時代を回想するベジャール自身による日本語のナレーションが流されると、懐かしさがこみ上げてきた。
「大きくなったら僕はママと結婚するんだ」というほど大好きだった母は、ビムが7歳の時に亡くなり、「しばらくして僕はバレエと結婚した」と語りは続くが、この母への思慕とバレエへの情熱が作品のモチーフとなっている。舞台はクリスマスの夜で始まり、少年ビムと母、仲良しの猫のフェリックス、そして父であり、マリウス・プティパでもあり、メフィストにもなるM…を軸に展開された。ときおりナレーションが挿入されるが、「バレエを踊りたいなら、稽古、稽古、稽古あるのみだ」というベジャールの言葉は耳に残る。

導入部の後は、バレエのレッスン風景、妹との『ファウスト』の芝居ごっこ、ボーイスカウトでの生活、ショーから抜け出てきたような派手な衣裳の光の天使と妖精たち、巨大な聖母像のほこらでの母との再会など、追憶と夢の中の出来事が織り合わされていた。
第2幕はビムが様々な踊りで母をもてなす趣向で、闘牛を盛り込んだスペインの踊りや、バトンを回す女性と自転車を乗り回す男性による中国の踊り、奇術を披露するアラビアの踊り、力強いロシアの踊り、シャンソンにのせたパリの踊りに、ベジャールの視点がうかがえる。グラン・パ・ド・ドゥはプティパへの敬意からオリジナルで踊られた。そして冒頭のクリスマスの夜に戻り、目覚めたビムが聖母像のミニチュアを見つけて喜ぶシーンで幕となる。

tokyo1301b_1284.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

ダンサーでは、要となるM…役の木村和夫が、シャープな足さばきやキレの良い身のこなしをみせ、柔らかな包容力や峻厳な態度、おどろおどろしさなど、役に応じて鮮やかに演じ分けた。ビムの岡崎隼也は好奇心旺盛で素直な心の少年になりきろうとしていたが、多感さがもっと滲めばと思う。母役の渡辺理恵は、やや抽象的で捉えづらい役だけに、十分こなれていなくても仕方ないかもしれない。フェリックス役の梅澤紘貴は、真面目すぎたか、猫らしさが今一つ。グラン・パ・ド・ドゥの上野水香は安定したテクニックで見栄えがあったが、腕の表情にもっとふくらみが出ると良いと思う。パートナーの後藤晴雄は卒なく踊ったが、上野の演技としっくり合っていないように感じた。ともあれ、ベジャールの、ダンサーとしての出発点を知ることができて興味深かった。その意味で、『くるみ割り人形』は記念シリーズの幕開けにふさわしい演目といえよう。
(2012年12月16日 東京文化会館)

tokyo1301b_0079.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1301b_0958.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1301b_1303.jpg photo:Kiyonori Hasegawa