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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.12.10]

5人の新進振付家がそれぞれの個性を生かした新作を発表、バレエ協会「クレアシオン」

バレエ協会「クレアシオン 2012」
『真紅の風流るる地ありて 踏みしむ土の薫黒き』大岩ピレス淑子:振付、『振付悪夢』小林十市:振付、『L'instant---ランスタン---』中原麻里:振付、『L'esprit Blanc---レスプリ・ブラン----』山本康介:振付、『The Scent of Autumn』下村由理恵:振付

文化庁と日本バレエ協会が主催するの新進芸術家育成事業「Ballet Creation 2012」の「クレアシオン」公演は、5人の舞踊家が作品を発表した。普段はあまり新しい振付作品を制作できない、あるいはできても広く観客に訴えるチャンスの少ない舞踊家たちに発表の場を与えるという企画であろう。それぞれ特色を出したまた、創作に真剣に取り組んでいる真面目さ、一途な気持ちが伝わってくる作品でなかなかおもしろいかった。
大岩ピレス淑子はニュ−ヨークのジュリアード音楽院の出身、トワイラ・サープやビル・T・ジョーンズのカンパニーで踊り、ヨガ、解剖学、セラピーなどを学んだ後に、バレエ・プレルジョカージュでも踊った。ブラジルで音楽とダンスの研究も行っている、という。
タイトルは『真紅の風流るる地にありて 踏みしむ土の薫黒き』。前半をバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番よりアダージオ」で、後半ではブラジルの北東部の音楽で「フォホ」「マラカトゥ」を使っている。音楽と身体の共感をそのまま舞台に上げたような作品だった。中央に赤いドレスのバイオリニスト。それに対峙するように赤い衣装のソリストが立ち、周りをコール・ドが踊るシーンから始まった。赤をアレンジした衣装を着けた3組のカップルとコール・ドと、それぞれ絶妙のタイミングで登場したパーカションのグループがリズムをリード。軽やかで楽しいダンスシーンが生まれた。バイオリンとの一体感がじつにスムーズで、ヴィジュアルにも起伏をもたせていた。そしてまるで何百年も続いているカーニバルのように列をなして踊り、演奏しながら客席に静かに消えた。

tokyo1212h_1508.jpg 撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌

ベジャール作品を踊りたくてベジャール・バレエ・ローザンヌに入団し、2003年に退団後は世界各国にベジャール作品の振付を指導している、小林十市が振付けた『振付悪夢』。
振付を始めようとすると、空想の中で師匠のベジャールに「ジュイーシ」と呼ばれ、「アン・ドゥ・トロワ」の声が聞こえてきて、ベジャール・バレエ時代の幻想に悩まされる。その幻影と格闘し交流するうちに、自身の内面から自然に振りが生まれてくるまでのプロセスを作品にしたもの。ところどころで踊られるベジャール独特の美意識で作られた振りが無性に懐かしい。音楽とともに踊られると、まるでベジャールがすぐそこで「ジュイーシ」と声をかけてくるのではないか、と感じる。そこには振付家とダンサーの親密な関係が現れて、その存在感を誇示しているかのようだ。その存在感のエネルギーが尽きるまでは、生きているか死んでいるかなど問題ではないのではないか、などと奇妙なセンチメントに襲われた。
ベジャールの厳しい表情のスケッチも何枚か登場し、どこがということもなくヒューマンなユーモアが漂った作品だった。黄泉の国からベジャールは「ジュイーシ」と呟いたに違いない。

中原麻理振付の『L'instant----ランスタン----』は『椿姫』に題材をとったバレエ。彼女自身にはこの題材を使った振付の歴史がある。横たわったバレリーナ、死の床に就くヴィオレッタ(伊藤さよ子)から始まる。アルフレード役の武石光嗣がプリンシパルとして、二組のアンサンブルと踊った。なかなか緊密な構成で大筋は物語どうりだが、ヴィオレッタが次に遭う約束をする時に、白椿を渡すところをクライマックスとし、最も情感を高めるシーンとしている。音楽はヴェルディを使っているが、ズンズンという重低音や抽象音も使用している。ラストはオープニングと同じポーズを決めることで上手く完結した。

元英国ロイヤル・バレエの山本康介が振付けた『L'esprit Blanc---レスプリ・ブラン(白いエスプリ』。モーリス・ラベルの『クープランの墓』という曲の振付けたもの。ラベルがクープランその人というより第一次世界大戦で亡くなった友人を偲び、その気持ちを通して18世紀フランス音楽へのオマージュとしたもの。曲の構成の通り、プレリュード、フーガ、フォルラーヌ、リゴドン、メヌエット、トッカータの6章に振付けた。純白の衣裳でトリオ、ソロ、群舞、デュオなどによりバロック風の白いダンスをピアノ演奏によって踊った。清楚で古風な感じがとても印象に残った。

トリは下村由理恵アンサンブルを主宰する下村由理恵が振付けた『The Scent of Autumn』。チャイコフスキーの音楽にのせて、音の繋がりを人と人との心の繋がりに託す振付だったが、20人のダンサーをじつに手際よく動かし、秋の色合いを表わした流麗な流れが印象に残った。衣裳も下村自身がデザインした美しいロマンティック・チュチュを中心としたもので、とても舞台映えがしてフェミニンな素敵な出来上がりだった。自らが主宰するアンサンブルで活動を続けてきた成果をみせた。
(2012年11月10日 メルパルクホール)

tokyo1212h_1252.jpg 撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌 tokyo1212h_1761.jpg 撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌
tokyo1212h_2170.jpg 撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌 tokyo1212h_80039.jpg 撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌