ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.12.10]

ダニール・シムキンが映像とのコラボレーションで新境地を模索

DANIIL SIMKIN “INTENSIO” ダニール・シムキンのすべて〈インテンシオ〉
『Qi(気)』アナベル・ロペス・オチョア:振付ほか

2009年の〈世界バレエフェスティバル〉で驚異的なテクニックを披露して以来、“ワンダー・ボーイ”として人気を博しているアメリカン・バレエ・シアター(ABT)のダニール・シムキンが、〈インテンシオ〉と題したガラ公演を行った。〈インテンシオ〉は「インテンション(意図)」と「インテンス(力強い、強烈な)」を掛け合わせた造語で、座長を務めるシムキンがこのプロジェクトの本質を伝えようと考案したもの。多彩なダンサーによる多様な作品を並べたのは他のガラ公演と同じだが、父親のドミトリー・シムキンがデザインしたビデオ映像を斬新な形で活用し、独自性を打ち出そうとした。出演者は変更もあったが、シムキンを含め男女5人ずつの計10人。同じABTのジュリー・ケントをはじめ、特別出演の吉田都とロベルト・ボッレや、サンクトペテルブルク・バレエ・シアターのイリーナ・コレスニコワ、ウィーン国立バレエ団のウラジーミル・シショフら、バックグラウンドの異なるダンサーが参加した。プログラムは2部構成で、12作品が上演された。

tokyo1212e_01.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

会場に入ると、紗幕全面に〈インテンシオ〉についてのツィッターの書き込みの映像が回転するように投影されていた。続いて〈オープニング〉に入ると、踊るシムキンの身体を紗幕のスクリーンにアップで映しながら、紗幕の奥で出演者たちがウォーミングアップをしているような姿を次々に浮かび上がらせた。なお、作品ごとに振付家やダンサーたちの名前を紗幕に映し出したのは、冒頭に全部をまとめて投影されるより有難く感じた。
シムキンが踊ったのは4作品で、第1部と第2部の最初と最後に登場した。まず、この公演のために制作したソロ作品『Qi(気)』で幕開けを飾った。振付はコロンビアとベルギーのハーフで、オランダを拠点に活躍する若手のアナベル・ロペス・オチョア。踊るシムキンと、その動きにリアルタイムで反応するインタラクティブな映像を投影してダンスとコラボレートさせるという実験的な作品。背後のスクリーンには、地表から湧き上がる気を表すのか、流れる雲のような抽象的な模様が映し出されており、シムキンの精密な動きに反応して、墨絵のような模様は形や濃淡を変え、赤い照明に染まりもした。シムキンから放たれる“気”が映像に転換されるような面白さはあったが、ダンスそのものとしてはやや単調な印象を受けた。
第1部の最後は、サンフランシスコ・バレエ団のマリア・コチェトコワと組んでの『海賊』より第2幕のパ・ド・ドゥ。シムキンが極上のアラベスクのポーズを見せ、コーダでリヴォルタードなどの難技を鮮やかに決めれば、コチェトコワも高速で小技を入れたフェッテをこなすなど、共に次々に超絶技巧を披露して盛り上げた。

第2部はシムキンとABTのイザベラ・ボイルストンによる『雨』で始まった。振付はアナベル・ロペス・オチョアで、音楽はJ・S・バッハの「ゴルトベルク変奏曲」より。映し出される降り注ぐ雨を背景に、ビキニのボイルストンと短パンのシムキンが親密な会話を交わすように踊ったが、更なる展開をみせずに終わってしまった。ここでの不満を払拭するように、トリの『レ・ブルジョワ』でシムキンは魅力を全開させた。コーウェンベルグがジャック・ブレルのシャンソンに振付けたおどけたソロ作品。白の半袖シャツに黒のズボン、ネクタイを結び、メガネを掛けて登場。若さが匂い立つシムキンだけに、酔ってふらつく様を茶目っ気たっぷりに演じながら、ここでも驚異的な跳躍や回転技をいとも容易く連発させた。観客を楽しませながら、自身も楽しんでいる様子が伝わってきた。

他に出色だったのは、急きょ参加が決まった吉田都とボッレが組んだ『ロミオとジュリエット』(振付・マクミラン)より第1幕のバルコニー・シーン。初共演だそうだが、胸のときめきと乙女らしい恥じらいを伝える吉田の細やかな演技と、彼女を優しく包み込むボッレのひたむきな演技が相まって、恋の高揚感を流麗なデュエットでうたいあげた。
大人の味わいを見せたのはケント。ABTのコリー・スターンズと踊った『葉は色あせて』(振付・チューダー)と『クルーエル・ワールド』(振付・クデルカ)では地味だがしっとりした雰囲気を醸し、対照的にボッレと組んだ『椿姫』(振付・ノイマイヤー)より第3幕のパ・ド・ドゥでは、ヒロインの悲哀に満ちた心の内を情感豊かにドラマティックに演じた。ボッレも一途なアルマンを実にストレートに演じ、はずむ心を跳躍や回転で表した。ただ、荒くなった息遣いが客席にまで届いたのが気になった。

tokyo1212e_08.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

『白鳥の湖』のグラン・アダージオと“黒鳥のパ・ド・ドゥ”を踊ったのはコレスニコワとシショフのペア。コレスニコワは上体がやや筋肉質に思えたが、腕の表情は豊かで安定感も抜群。オデットでは少々クセのある振りが気になったが、オディールではフェッテで中ごろと最後にダブルを入れてアクセントをつけ、あとは強靭なシングルで押し切り、凄みを見せた。
ニューヨーク・シティ・バレエのホアキン・デ・ルースは、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』で鮮やかな跳躍やピルエットに小技を織り込むなど、ガラ公演を意識した巧みなヴァリエーションを踊った。
一方、『ジゼル』第2幕のパ・ド・ドゥでは端整に踊り、ジゼルのコチェトコワも柔らかな跳躍や足さばきを見せた。〈フィナーレ〉では、最初と同様、紗幕にシムキンの映像を投影しながら、幕越しにペアを組んだダンサーたちが踊った作品の一部を演じる姿を見せた。

公演の構成を改めて振り返ると、『Qi』と『雨』以外はお馴染みの作品ばかりで新鮮味は薄かったのが惜しまれる。また、バレエ団の枠を超えた素晴らしいダンサーの組み合わせもあったが、相性の良くないペアも見受けられた。パフォーマンスの良し悪しをも左右するだけに、ダンサーの組み合わせには慎重に臨んで欲しいところ。けれど、若いながら、座長としてそうそうたる先輩を含めて全体を束ねた経験は貴重だろう。今回の実績を踏まえて、さらにどう展開するか、次回を期待したい。
(2012年11月24日 ゆうぽうとホール)

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