ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.12.10]

舞台を楽しむことができた小野絢子、福島雄大主演、ビントレー振付『シルヴィア』

新国立劇場バレエ団
『シルヴィア』デヴィッド・ビントレー:振付

新国立劇場バレエ団が『シルヴィア』を上演した。レオ・ドリーブの音楽で知られる『シルヴィア』は、1876年にルイ・メラントが振付け、パリ・オペラ座で上演された。その後は1952年に初演され、2004年にロイヤル・バレエ団でリヴァイヴァル上演され話題となったフレデリック・アシュトン版、1997年にパリ・オペラ座で上演されたジョン・ノイマイヤー版などが有名だ。
デヴィッド・ビントレーは1993年にバーミンガム・ロイヤル・バレエ団に振付け、吉田都と今期ロイヤル・バレエ団の芸術監督に就任したケビン・オヘアが主演した。その後、2009年に改訂振付を行ってバーミンガムで上演した『シルヴィア』が今回の作品である。

tokyo1212d_01.jpg 撮影/鹿摩隆司

伯爵家の夫婦の愛の不在の不毛を、家庭教師と召使いの愛を成立させることによって解決しよう、というストーリーで、ローマ神話の愛の物語が、仮装舞踏会とともに繰り広げられる、という趣向。
導入部はなかなかおもしろかった。第一幕プロローグは伯爵夫妻の結婚記念のパーティ。夫妻の不仲と家庭教師(シルヴィア)に思いを寄せる召使い(アミンタ)が描かれる。そして仮装舞踏会が始まると、いつしか舞台はローマ神話の世界へ。
狩りの女神ダイアナ(伯爵夫人)にニンフたちの水浴を覗いたとして、視力を奪われたアミンタをシルヴィア(家庭教師)がいたわる。しかし、シルヴィアは好色なオライオン(伯爵)にさらわれるてしまう。途方にくれるアミンタをエロス(庭師)がおいかけるように導く。オライオンが酔ったところに目が見えないアミンタが現れるが、シルヴィアはさらわれたことを恥じて逃げ出す。
第三幕では、ダイアナの館に海賊に化けたエロスがシルヴィアを連れて現れる。オライオンはダイアナの軍団に退治され、アミンタも無事視力を回復し、グラン・パ・ド・ドゥが踊られ、仮装舞踏会は終わる。伯爵夫妻は愛の素晴らしさを再認識して二人の愛を取り戻した。

『アラジン』や『パゴダの王子』よりも楽しく見ることができた。ビントレーの振付は、これぞ傑作とかいった力みがなく、軽いストーリー展開ですっきりとまとまり、ソフィストケイトされている。日本文化を無理して引っ張り出すこともなかった。素材を充分に咀嚼して距離をとり思うように動かしている。
小野絢子と福岡雄大もよかった。小野は持ち味の健気さが活き活きとして際立っている。福岡も意外とコミカルに演じる力が有るところを見せているし、なによりもパワーに溢れエネルギーが直接客席に伝わってくるところが素晴らしい。それからエロスの吉本泰久が好演だった。ソフトてちょっととほけた感じがでたことが、この作品を成功に導いた大きな要素だろう。衣装も適切に物語に加わっていて良かった。オライオンを演じた古川和則は少し肩を怒らせすぎとも見えたが、それが反って効果的だったようだ。伯爵夫人とダイアナを踊った湯川麻美子はこうした役が板についてきたと思う。

tokyo1212d_04.jpg 撮影/鹿摩隆司

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団から参加した、佐久間奈緒とツァオ・チーでも観ることができた。ツァオは身軽で安定感のある踊りだった。佐久間は踊ってかなり演技しなければならない難しい役をよくこなしていた。
ただ全体に、音楽と物語とダンスにほんの少しずつ隙間があるような気がした。そのあたりが『コッペリア』とのちがいであろうか。
例えば第二幕。好色のオライオンを酔わせて危うく身を守るシルヴィアとか、目の見えないアミンタに、オライオンと一夜を過ごしてしまったことを知られまいとするシルヴィアとか、二人の愛を導くエロスとからむ、おもしろい動きを作れそうな条件が揃っているのだが、あまり活かされているとは思えなかった。音楽の流れとの関係もあるだろうが。それぞれの要素が錯綜してカオスを創るシーンはなく、ひとつの関係だけの単純な構成に留まっているようにも見えたのは、少々残念だったが、キャストはみんな良く芝居を理解して演じているがわかる舞台だった。
(2012年10月27日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1212d_02.jpg 撮影/鹿摩隆司 tokyo1212d_03.jpg 撮影/鹿摩隆司