ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.11.12]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
2013年1月24日から始まる新国立劇場の「ダイナミック ダンス!」で『イン・ジ・アッパールーム』を上演するために、エレイン・クドーが来日するそうだ。エレイン・クドーといえば、26年前にバリシニコフと共に来日。『シナトラ組曲』のデュエットを踊った。最近、トワイラ・サープ振付のシナトラ・ソングスによるミュージカル『カム・フライ・アウエイ』の日本公演のもあったりして、バリシニコフが来日した当時ことを思い出す。彼の舞台は次の来日も含めて他に『フー・ケアーズ』『ジゼル』の第2幕などを観ることができた。特に『ジゼル』は印象深い。バリシニコフのアルブレヒトは、深い心情を訴えるとともにジゼルとの愛の悲劇を奏でるかのように踊るのである。よく話題になるマラーホフのアルブレヒトは想いのすべてを舞台の上に投げ出す、かのように踊る。それとはまた対照的な悲劇の表現であって、観客自身の心のあり方によってはどちらかに強く惹かれることになる、といえるだろう。ある時はマラーホフ/アルブレヒトに胸を突かれても10年後には、バリシニコフ/アルブレヒトに感動し、その10年後にはやはり・・・ということになることがあるだろう。クラシック・バレエの名作は優れたダンサーによって、様々に表現の域を広めその奥行きは深める。得難い人類の宝である。

神戸里奈、橋本直樹が踊った快活明快な熊川版『ドン・キホーテ』

K-BALLET COMPANY
『ドン・キホーテ』熊川哲也:演出・再振付/美術/衣裳

熊川哲也版『ドン・キホーテ』は2004年初演。熊川自身が振付・演出のみならず、舞台美術、衣裳まで手掛けた。そして彼にとって愛着の深い『ドン・キホーテ』という作品と、その背景となるスペイン文化へのイメージを舞台に写し取った。それだけ思い入れの深い作品だと思われる。
キトリは神戸里奈。『コッペリア』のスワニルダや『くるみ割り人形』のクララといった役どころが中心だったが、さらに実力を発揮し、『ラプソディ』の主演や『シンデレラ』のタイトルロールを踊って成功を収め、今回は初役となるキトリを踊った。神戸は、一段とほっそりしとした印象で、大役『ドン・キホーテ』の主役キトリを踊る準備が整っていたことを思わせる。なかなか機敏で動き自体が魅力的なラインを描き、観客の目を惹き付けるところも神戸の特徴のひとつだ。しかっりと踊り申し分なかった。常に堂々とパートナーを見据えていたが、希に上半身が特に首がゆらいでいるように見えたところもあった。橋本とのコンビネーションも魅力的なので、これから大いに期待のもてるペアだ。
橋本はバジルを完璧に踊った。特に下半身が安定していてステップが素速く正確で、うっとり眺めているとたちまち魅了されてしまう。バジル役だからだろうか、ヘアが重そうにみえることもあったが、快活で明るくキトリを守り、ちょっとやそっとではめげない、魅力溢れるバジルだった。
ドン・キホーテに扮したスチュワート・キャシディ、ガマーシュ役のビヤンバ・バットボトルも熊川の期待に応えるような好演だったと思う。特にバットボトルのガマーシュは熱演で、どんなに頑張っても結局、キトリと結婚することは困難と情勢を察すると、どうしてもフェティッシュな感情を抑えきれなくなるあたりをうまく表現していた。そういえば、『シンデレラ』のダンス教師、『海賊』のビルバンド、『くるみ割り人形』のねずみの王様、『真夏の夜の夢』のボトム、と彼の踊りはみんな印象に残っているのだった。キャリアをみるとモンゴル国立バレエのプリンシパルとして赫赫たる実績をあげていた。
また、コール・ド・バレエも動きが揃うことはもちろんだが、踊る気持が良く揃って現れはつらつとしていたので、全体に港町バルセロナの広場はこのようだったろうと思わせるように、舞台は活気に溢れていた。

演出は第二幕のドン・キホーテがジプシーのキャンプの中で、突然、敵と見間違って風車に突っ込むまで、あるいはバジルの狂言自殺にのせられたロレンツオが、恋する二人の結婚を許してしまう決断をするまでなど、とかくないがしろにされがちなシーンにも細やかな所作を入れて、初めて観る観客にも理解し易くするなど配慮が行き届いたものだった。全体に物語の流れもスムーズで、要所要所で舞台上の出演者全員が手拍子を打って盛り上げるなど、演出効果と同時に、気持ちをひとつにして舞台を成功させようという意欲の感じられる公演だった。
(2012年10月20日 Bunkamura オーチャードホール)

tokyo1211a01.jpg 『ドン・キホーテ』神戸里奈、橋本直樹 撮影/木本忍