ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.09.10]

世代の異なるダンサーの競演とロシア勢の躍進が目立った世界バレエフェスティバル

The 13th World Ballet Festival
第13回世界バレエフェスティバル

オリンピックが4年に一度の国際的なスポーツの祭典なら、≪世界バレエフェスティバル≫は3年に一度のバレエの祭典。開催地が変わるオリンピックと異なり、
≪世界バレエフェスティバル≫の開催地は初回から東京で、各国のスターダンサーが、所属するバレエ団の枠を超えて東京に集まる、世界にも類のないバレエの祭典である。バレエフェスティバルの常連だったシルヴィ・ギエムが参加しなかったのは寂しいが、絶大な人気を誇るマニュエル・ルグリやウラジーミル・マラーホフらの常連が出演し、また、ウリヤーナ・ロパートキナやオレシア・ノヴィコワ、イーゴリ・ゼレンスキー、イワン・ワシーリエフといった初登場のロシア勢の活躍が注目された。ガラを除く、プログラムAとBを観た。

tokyo1209a01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

【プログラム A】
Aプロは4部構成で、18作品が上演された。トップは、今やアイドルになったダニール・シムキンとヤーナ・サレンコによる『スターズ・アンド・ストライプス』(バランシン振付)。シムキンはしなやかなパ・ド・シャやフレックスにしたアントルシャなど、涼しい顔で超絶技巧を披露し、愛くるしさをふりまいた。サレンコも一つ一つステップを端整にこなし、フェッテも安定。若いペアの瑞々しい演技は開幕にふわさしい。
黒いパンツで上半身裸のフリーデマン・フォーゲルは、『モペイ』(マルコ・ゲッケ振付)でせわしなく腕を震わせ、体を叩き、コントロールできない情動を表現した。
『幻想〜<白鳥の湖>のように』(ノイマイヤー振付)より第1幕のパ・ド・ドゥで、エレーヌ・ブシェは王の心をとらえようとして拒まれる王女の哀しさを激しくも切なく演じ、ティアゴ・ボァディンは王女の期待に添えぬ苦悩を全身から滲ませるなど、ドラマを息づかせた。
『ドリーブ組曲』(ジョゼ・マルティネス振付)で、日本人唯一の参加者である上野水香は滑らかな回転やしなやかな身のこなしを見せ、マシュー・ゴールディングは力強いピルエットを披露し、楽しげな雰囲気作りも含めて、息の合ったデュエットを展開した。

第2部はオレリー・デュポンとマニュエル・ルグリによる『扉は必ず…』で始まった。キリアンがフラゴナールの絵画「閂」に着想を得て創作した、ユーモアのセンスが光る作品。動きを極度にスローモーにすることで、男と女の心の駆け引きが浮き彫りにされた。以前の舞台同様、見事な身体のコントロール、絶妙の息遣いだった。
『海賊』(プティパ振付)ではベテランのイーゴリ・ゼレンスキーが初登場。力技に訴えることなく、しなやかなピルエットや跳躍など、マリインスキー仕込みの優雅さを披露。ポリーナ・セミオノワは高く脚を上げ、ダブルを入れたフェッテなど、手堅くまとめた。
ナターリヤ・オシポワとイワン・ワシーリエフが裸足で踊ったのは、マウロ・ビゴンゼッティが2人のために振付けた『セレナータ』。郷愁を誘う歌にのせて展開された、反抗する女と引き止める男の生々しい駆け引きには息を呑んだ。
『瀕死の白鳥』(フォーキン振付)で、ウリヤーナ・ロパートキナは柔らかに腕を波打たせ、命をいとおしみながら力尽きてゆく様を繊細に表現した。

tokyo1209a03.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

第3部は『ロミオとジュリエット』(クランコ振付)のバルコニー・シーンで始まった。マリア・アイシュヴァルトは夢心地のジュリエットになりきり、恥じらいや高揚感を素直に表現。颯爽と現れたロミオのマライン・ラドメーカーはスピード感溢れる伸びやかな跳躍で恋する喜びを伝え、アイシュヴァルトを美しくリフトした。
アニエス・ルテステュとジョゼ・マルティネスは『ジュエルズ』(バランシン振付)より “ダイヤモンド” で、いつもながら格調高くエレガントに舞った。
スヴェトラーナ・ザハロワは台湾出身のエドワード・リャンによる『ディスタント・クライズ』で、アンドレイ・メルクーリエフのサポートで長い脚を自在に操り、新たな魅力を発揮した。
マルセロ・ゴメスは自作の『パガニーニ』を自演。舞台の上でヴァイオリンを弾くチャールズ・ヤンと挑発しあい、ヴォルテージをあげていった。ゴメスは細い脚を活かし、華奢でシャープなダンスを披露した。
次は『ラ・シルフィード』(ブルノンヴィル版に基づきヨハン・コボーが振付)第2幕より。タマラ・ロホは足音をたてずに軽やかに舞い、スティーヴン・マックレーはアントルシャなど高く跳んでみせた。短いシーンだが、ふたりは芝居をおろそかにしなかった。

第4部。エリザベット・ロスと組んで『ブレルとバルバラ』(ベジャール振付)を踊ったジル・ロマンの、年齢を感じさせない瑞々しさに感心した。
『明るい小川』(ラトマンスキー振付)よりのコミカルなパ・ド・ドゥでは、アリーナ・コジョカルのコケティッシュな演技がはじけ、ヨハン・コボーも跳躍の妙技を見せた。
『カンタータ』はウラジーミル・マラーホフがナチョ・ドゥアトに委嘱した作品で、世界初演。J.S.バッハの音楽にのせ、マラーホフとディアナ・ヴィシニョーワの親密なデュエットが紡がれたが、衣裳のせいかマラーホフの胴が太く見え、また女性のサポート役に終始したようで、物足りなさを感じた。
再登場のセミオノワはフォーゲルと組み、『オネーギン』(クランコ振付)より第1幕のパ・ド・ドゥで、燃え上がる恋心を振幅大きく表現。フォーゲルは巧みにリフトやサポートをこなしつつ、ニヒルさを漂わせた。
トリは定番の『ドン・キホーテ』(プティパ振付)。オレシア・ノヴィコワは長くバランスを保ち、ダブルを入れたフェッテでも軸がぶれない綺麗な足さばきを見せた。レオニード・サラファーノフは空中での開脚が美しく、スケールの大きなジャンプをみせ、着地もピタリと決めた。
(2012年8月2日、東京文化会館)

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【プログラム B】
プログラムBも4部構成で、18作品が並んだ。第1部で印象深かったのは、『パルジファル』(ベジャール振付)を踊ったカテリーナ・シャルキナとオスカー・シャコン。ダンサーの踊る姿が背後のスクリーンに巨大な影になって映されることで、動きのスケールが拡大され、無気味なインパクトが生まれた。ふたりの彫刻的な身体の美しさも際立った。
プティ振付の『タイス』(『マ・パヴロワ』より)では、上野水香がマシュー・ゴールディングのサポートに身体を預け、滑らかに踊りつないでいった。こうしたしっとりした作品に取り組むことで、抒情的な表現にさらに磨きがかかるだろう。『エフィ』はマルコ・ゲッケがマライン・ラドメーカーのために創作した作品。黒いパンツだけなので、逞しい上半身の動きが良く分かった。内から突き上げてくるものを動きに転換するのか、腕や脚を細かく振動させたが、少々長すぎた。
タマラ・ロホとスティーヴン・マックレーは『ライモンダ』(プティパ振付)で、目を奪うような跳躍や回転技を次々に披露して会場を沸かせた。

tokyo1209a12.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

第2部は『ロミオとジュリエット』(マクミラン振付)のバルコニー・シーンで始まった。アリーナ・コジョカルの仕草が可憐で可愛らしく、ヨハン・コボーは彼女の心も体もしっかり抱き止め、躍動感あふれるパ・ド・ドゥとなった。
『椿姫』(ノイマイヤー振付)より第3幕のパ・ド・ドゥで、アニエス・ルテステュがアルマンへの切ない思いや愛する哀しみを全身から滲ませて秀逸。ステファン・ビュリョンも、拗ねた態度を見せながらマルグリットへの愛をストレートにぶつけて好演。
『ラ・シルフィード』(ラコット振付)では、エフゲーニャ・オブラスツォーワが愛らしさを湛えた、しなやかな身のこなしで空気の精を舞った。彼女に振り回されるマチュー・ガニオはアントルシャなどのジャンプを巧みにこなしたが、颯爽としていて農村の青年には見えなかった。東京バレエ団の群舞付きだったが、中途半端な形だったのが惜しまれる。

第3部。『マーラー交響曲第5番』より“アダージェット”(ノイマイヤー振付)で、エレーヌ・ブシェとティアゴ・ボァディンは静かに内面的なデュエットを紡いだ。
『シェエラザード』(フォーキン振付)のポリーナ・セミオノワは妖艶さが今一つ。イーゴリ・ゼレンスキーは従順な金の奴隷といった風で、濃密な官能性が漂うまでにはいかなかった。
『アザー・ダンス』(ロビンズ振付)では、オレリー・デュポンとジョシュア・オファルトが舞台上でのピアノ演奏に合わせて小気味良い回転技や跳躍をさり気なく盛り込んで踊った。洒落た味わいの作品だ。
ナターリヤ・オシポワとイワン・ワシーリエフは、『海賊』(プティパ振付)で驚異的な跳躍や回転技を詰め込んだパ・ド・ドゥで圧倒的な存在感を示した。

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第4部の幕開けは『ル・パルク』(プレルジョカージュ振付)。男女の恋愛の最終段階での“解放”を描いたというパ・ド・ドゥで、ディアナ・ヴィシニョーワの有無を言わさぬ凄みのあるアプローチと、ウラジーミル・マラーホフの逃げ腰の対応が強烈なコントラストを成していた。
『ジュエルズ』(バランシン振付)より“ダイヤモンド”では、マルセロ・ゴメスと組んだウリヤーナ・ロパートキナの洗練された手足の動きが際立ち、しっとりと典雅さを漂わせた。
『オネーギン』(クランコ振付)より第3幕のパ・ド・ドゥでは、情熱的に相手を求めるマニュエル・ルグリと、突き上げてくる感情に押し流されそうになりながら必死にこらえるマリア・アイシュヴァルトが、物語を凝縮したようなデュエットを展開した。
締めの演目『ドン・キホーテ』(プティパ振付)を踊ったのはヤーナ・サレンコとダニール・シムキン。サレンコが長くバランスを保ち、ダブルやトリプルを入れたフェッテを鮮やかにこなせば、シムキンは彼女を片手で軽やかにリフトし、リズミカルなピルエットやダイナミックなマネージュを披露し、会場を沸かせた。

ベテランから新鋭まで、世代やスタイルの異なるダンサーの競演が楽しめたが、旬の振付家に出会える楽しみもあった。クラシック作品を典雅に踊ったダンサーが、斬新な現代作品で意外な個性を発揮するなど、思わぬ発見もあった。だからコンテンポラリー作品を積極的に取り上げるのは結構だが、古典作品とのバランスには配慮して欲しいと思う。ただ、AプロもBプロも盛りだくさんだったため、公演は長丁場におよび、特にBプロは公演時間が予定の4時間半を優に超えた。一度に色々なダンサーや作品を鑑賞できるのは嬉しいが、ここまで長くては集中力を保つのは難しくなり、優れた作品でも印象が薄まってしまう。無理な注文とは思うが、一考をお願いしたい。
(2012年8月14日、東京文化会館)

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