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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.08.10]

黄昏の港を借景とした野外公演の醍醐味を堪能させた東京バレエ団『ボレロ』ほか

〈横浜ベイサイドバレエ〉
東京バレエ団:モーリス・ベジャール振付『ギリシャの踊り』『ボレロ』/アルベルト・アロンソ振付『カルメン』より

横浜港の大桟橋とベイブリッジをバックに赤レンガ倉庫の敷地に組まれた特設ステージで、東京バレエ団が上演した〈横浜ベイサイドバレエ〉は、夜空の下、潮の匂いを運ぶ風を浴びながら鑑賞するという、夏の夜の野外公演ならではの魅力を満喫させた。≪ダンス・ダンス・ダンスatヨコハマ2012≫のオープニングを飾るイベントとして企画されたもので、野外での本格的なバレエ公演が日本では珍しいこともあって話題を集め、入場券は早々に売り切れたという。弱みは天候に左右されることで、20日の公演は雨で23日に順延されたが、2回限りの公演だっただけに、中止せずに実施できたのは何よりだった。

最初の演目は、ベジャールがギリシャの作曲家ミキス・テオドラキスの郷愁を誘う音楽に振付けた『ギリシャの踊り』。潮騒の音が響く中、波の動きを模したような群舞で始まり、終わる作品で、この会場に最もふさわしく思えた。冒頭の、白いパンツで上半身裸の男性たちと黒のレオタードの女性たちのコントラスが鮮やかで、特に男性たちの波動を思わせる群舞からは爽やかな生のエネルギーが感じられた。ソロを踊った長瀬直義の柔らかなジャンプや軽快な回転が冴え、裸足で踊った小出領子と松下裕次の端整なパ・ド・ドゥと吉岡美佳と木村和夫のクラシカルな趣のデュエットの対比が生きていた。なお、劇場では地中海の空や海を思わせるようなブルーの背景で始まり、黒い幕がこれを覆ってから様々なダンスが繰り広げられ、再びブルーの背景に戻って終るが、今回の背景は港の景観そのもの。遠方に望むベイブリッジのライトや、イルミネーションで飾られた屋形船がダンスの進行に合わせたように背後を横切るなど、上々の雰囲気だった。

tokyo1208c01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1208c02.jpg photo:Kiyonori Hasegawa
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次はアルベルト・アロンソ振付の『カルメン』。壁で囲まれた半円形の闘牛場という閉じられた空間が舞台で、壁の上にはここで展開されるドラマを見下ろすように見物席が設けられている。アロンソはカルメンと彼女をめぐる3人の男に焦点を当て、心理的側面を掘り下げて描いている。ビゼーのオペラと異なり、カルメンと女工のケンカやホセの許婚者は省かれ、代わりに運命としての牛に象徴的な役割を演じさせているが、40分に短縮しての上演でもあり、馴染みのない人には分かりづらい部分もあったかもしれない。その分、迫真の演技で補った形だ。カルメンを踊った斎藤友佳理は大胆に脚を振り上げて奔放に踊り、妖しい眼差しでホセやエスカミリオを挑発した。ただ、アイ・メイクが濃すぎて、少々毒々しく映った。首藤康之のホセは繊細な神経の持ち主といった感じで、鋭い足先で権力を誇示する後藤晴雄の演じる隊長ツニガには従順に従い、斎藤とのパ・ド・ドゥでは堰を切ったように情熱をほとばしらせた。闘牛士エスカミリオの高岸直樹は貫禄が増したようで、一つの仕草を大きく見せた。運命役の奈良春夏の敏捷な身のこなしも印象的だった。野外ステージということで、総じて演技の幅を大きくしたようで、全力で臨んだ感じがした。

tokyo1208c04.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

最後を締めたのはベジャールの『ボレロ』。赤い円卓の上で“メロディ”を踊った上野水香は、こなれた腕の動きや柔軟な膝の屈伸を繰り返しながら、音楽の高揚に乗じてエネルギーを放出していったが、いつもより自由に伸び伸びと踊っているように見えた。客席に向けて解放された空間だったため、いつもと違う手応えを感じたのか、様々な表情が顔をよぎるのも新鮮に映った。円卓を囲む“リズム”の男性たちに呑み込まれるように上野が崩れるラストはやはり盛り上がった。屋外の特設公演ということで、ステージの勝手や音楽の聞こえ方が劇場とは違っただろうし、またダンサーたちが体に当たる風の影響を受けたとも思うが、踊る側も観る側も、野外公演ならではの醍醐味を味わったと思う。
(2012年7月23日 赤レンガオープンステージ)