ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.05.10]

世田谷美術館の魅力的空間に微妙さの極限を追求したボヴェ太郎の動き

構成・振付・出演:ボヴェ太郎『微か』
世田谷美術館 企画展示室A

2009年、世田谷美術館のエントランスホールを若手アーティストの実験の場とするシリーズ「トランス/エントランス」で『in statu nascendi』(「生まれいずる状態において」という意)を上演したボヴェ太郎が、同美術館で再び踊った。今回は世田谷美術館の改修工事を終えた再開記念公演だ。
ボヴェ太郎は、インプロヴィゼーションの学んだ後、「空間によって動きの質感が変わる」という体験を経て、身体から動きを構築してゆくのではなく色彩や音の響きなど様々な要素を知覚し、その関係性の中に舞踊を創っていく、という独特の創作活動を続けている。劇場以外の美術館や過去の住宅やその庭園、能楽堂などで上演することも多く、能や文学作品、ガムラン音楽などとのコラボレーションも行っている。

今回の作品は『微か』(音楽は原摩利彦)。会場は世田谷美術館の企画展示室Aとなっているが、美術館の展示スペースという言葉から連想するものとは些か異なる立派な空間である。
位置的には美術館のある砧公園の公共広場を見渡すロビーだが、全体がゆるやかな扇型となっている印象がある。そしてその扇型を平面とした大きな4つの透明な窓に向かって客席が設置されているので、ちょうど巨大な扇面の絵を背景に見るように着席することになる。しかしそこで実際に見えるのは、砧公園の枝ぶりのいい満開の桜花を見に来た人々がさんざめく光景だった。
舞踊の音楽が微かに聴こえてくると、そこが外界の騒音と遮断されていることがいっそう明らかになる。そして観客は、サイレント映画の背景が春の光に輝く色彩に照らされている様を眺めていることになり、不思議な感覚に陥る。スペース自体は天井の高さを否定するような、扇型をした函のような和の空間に納められているように感じられるものだった。
ボヴェ太郎の動きはまさに微妙であり、空間の微かな空気の流れを察知して方向を模索しつつ移動する。微細な触角をしきりに細かく動かしながら、空間の実体を把握してそれを身体によって表していく昆虫のようであり、普通の目で見るとそこには何の変化もみとめられないのだが、じつはそこに現れる極めて些細な違いの中に、宇宙を変換する決定的なものがあるのだ、と主張しているようにも感じられた。その微妙な動きをたまたま公演に遊びにきた人々が、立ち止まって音楽の聴こえないガラス窓越しに興味深げに見つめている姿が垣間見られて、密かに楽しくなった。
久しぶりにこのような微妙さが隅々まで支配する特別の空間に身を置いてひと時を過ごし、緊張を覚えた。それはまたなかなか心地よいひと時でもあった。
(2012年4月7日 世田谷美術館)

tokyo1205g01.jpg撮影/細川浩伸 tokyo1205g02.jpg撮影/細川浩伸