ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.05.10]
かつてはダンスを学ぶ若い人たちの間には、ベジャールが大いに人気を博したり、ピナ・バウシュが神格化されたり、ヌーヴェル・ダンスがまさに新しいダンスの潮流とみなされたり、あるいはフォーサイスこそが未来をもたらすアーティストとしてもてはやされたり、とかなり明らかなトレンドがあった。その後もケースマイケルやサッシャ・ワルツといった名前も聞くことがあったが、最近はどうなのだろうか。ビゴンゼッティやマクレガー、ウィールドン、ラトマンスキーあるいはアクラム・カーンやシェルカウイなどの振付家たちの舞台ももうひとつ大きな波動を起こすには至っていない。
20世紀のダンス巨匠たちが亡くなって、21世紀のダンスはどのような展開をみせるのか、未だに視界は開けてはいない。ボリショイ・バレエ団や英国ロイヤル・バレエ団などを始め、大きなカンパニーの芸術監督に若い世代が就任している。新しいダンスの出現に期待したい。

悲劇のカップルの運命を光と闇の変幻に描いた『ロミオとジュリエット』

中島伸欣 演出・振付、石井清子 振付『ロミオとジュリエット』
東京シティ・バレエ団

東京シティ・バレエ団の中島伸欣 演出・振付、石井清子 振付による『ロミオとジュリエット』は、2009年7月にティアラこうとうで初演された。今回は都民芸術フェスティバル参加作品として、衣裳を一新して新国立劇場 中劇場で再演された。オペラの衣裳を手掛けてきた小栗菜代子の新たなデザインを、イタリアの工房Faraniで制作している。この工房は、オリヴィア・ハッセーがジュリエットに扮して世界的に大ヒットしたフランコ・ゼフィレリ監督の映画『ロミオとジュリエット』の衣裳の一部も手掛けていて、現在も倉庫に保管されているという。

tokyo1205a01.jpg 撮影/鹿摩隆司

江頭良年が制作した装置は、ヴェローナの街や貴族の館、教会などを抽象化した造型を可動式に創り、舞台転換の速いテンポを可能にしている。そうした抽象化したシンプルな装置を背景に、ルネッサンス前夜のイタリアの具象的でリアルな衣裳を纏った登場人物が踊って、いっそう幻想的な効果を高めている。それは足立恒の照明ともども、舞台が小ぶりのティアラこうとうから奥行きのある新国立劇場 中劇場になったことにも対応している。こうしたことは芸術監督の安達悦子を中心としたスタッフが創意を凝らして考案したものだろう。
実際、初演時とは異なった舞台を観ているような印象もあった。
まず、髑髏をつけた人間がお棺に置かれたように立っている背景から、ヴェローナの街のキャピュレット家とモンタギュー家の大騒動が始まる。そしてキャピュレットの館もバルコニーもモンタギュー家の寝室も教会もヴェローナの街の広場さえも、まるですべてが悲劇のカップルが最後に収まる墓場の中に設えられているかのようにさえ感じられた。
そして第一幕はクラシック・バレエの伝統的な動きを主体とした現実感の強い世界だが、第二幕はコンテンポラリーの動きを多く加味した幻想性の高い世界へと変わる。こうした表現も悲劇的物語の展開にマッチしていて、観客の心により深い印象を刻むことに成功している。

私が観た日のキャストは、橘るみのジュリエットと黄凱のロミオ、チョ・ミンヨンのマキューシオ、キム・ボヨンのティボルト、春野雅彦のべンボーリオだった。
両親にパリス(小林洋壱)との結婚を迫られ、ジュリエットは命を捨てる覚悟で短刀を握りしめて教会に向かい、ロレンス修道士(金井利久)から仮死状態に陥って後に甦る薬をもらう。このあたり橘るみは気持ちの入ったジュリエットを演じなかなかの熱演だった。死を賭してパリスとの結婚を拒絶し、ティボルトの仇でもあるロミオとの愛を貫く、高貴な精神性をも表さなくてはならないシーンである。
ロレンス修道士から追放されたロミオへ仮死となってもジュリエットが甦ることを知らせる手紙は、運命の戯れによって届かない。ここに運命の人々と呼ばれるコール・ドを登場するのだが、演出としてはいささか常識的ではないか、とも思われたがどうか。しかし全編を通してみれば、追いつめられていく主人公の心理状態を装置と衣裳と照明を駆使して光と闇の変幻の中に表す演出は効果的であり、成功していると思われた。初演時よりもはるかに統一感のある完成度の高い舞台となった。
(2012年3月30日 新国立劇場 中劇場)

tokyo1205a02.jpg 撮影/鹿摩隆司 tokyo1205a03.jpg 撮影/鹿摩隆司
tokyo1205a04.jpg 撮影/鹿摩隆司 tokyo1205a05.jpg 撮影/鹿摩隆司
tokyo1205a06.jpg 撮影/鹿摩隆司 tokyo1205a07.jpg 撮影/鹿摩隆司