ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.04.10]

山田うんが『季節のない街』で描いた「カラフルな黒」

山田うん 振付・構成・演出『季節のない街』
CO. 山田うん

山田うんの『季節のない街』は3時開演だったので、会場に向かう途中の駅で黙祷を捧げた。あの大震災から早くも1年が経過した日だったのだ。
山田うんは、山本周五郎の小説から着想を得て『季節のない街』を振付けた。原作小説は、川島雄三監督の傑作映画『青べか物語』で知られる同名の小説の姉妹編ともいうべき作品で、多くのエピソードで構成されている。ちなみに『季節のない街』は黒澤明監督によって『どですかでん』というタイトルで映画化されている。

tokyo1204g01.jpg 撮影/塚田洋一

山田うんのダンス公演『季節のない街』の舞台は、ダンサーが開演前から登場し黙々と準備運動を始めた。やがて大きなキャスター付きのワゴン(三階建て)が登場。これにはに着古したシャツやズボンなどが干され、傘や鍋、釜あるいはギターなどが雑多に並べられて剥き出しの生活感の塊りのようだ。そこにカジュアルと言うか街着のダンサーたちがでたりはいったり、日常の暮らしそのものがごく自然に演じられる。開幕早々のダンスは、6人の男性ダンサーたちが床で丸くなり、足の先を手でつかんで回る。山田うんによるとこれは人間知恵の輪で、簡単に外すことができないという。
ワゴンは日常生活そのもの。ダンスで集団というか、うんは街といっていたと思うが内面的なあるいは精神的なものの表象が示される。肉体と心と同じような関係と捉えることができるかも知れない。
音楽はベートーヴェンの「交響曲第九番」の第四楽章から始まった。11日以外の他日公演とは楽章の順番を代えたという。
ワゴンが家だとすれば、そのほかのスペースでは人々は交流し、様々な事象が起り、悲喜劇が生まれ、それが踊られる。ダンサーそれぞれの個性が現れる。それがまた別の個性と出会って、奇妙なかなりアクロバットだったり、優しく癒やされたりするやりとりが展開して、さらに他の人々に波及したり全然無視されたりしながら、生きとして生ける街が存在している。それぞれのダンサーが思い思いに動き、てんでんばらばらに街に散在しているのだが、次第にシンクロして統一された踊りを踊る。この呼吸、タイミングが素晴らしかった。最後にはひとつの通底するものを発見できる場、それが街なのだろう。

tokyo1204g03.jpg 撮影/金子愛帆

山田うんは二年前からこの作品を立ち上げた。そして3.11に遭遇した。だからその時から、一年後が『季節のない街』の千秋楽になるととわかっていたそうだ。そして震災の後、このダンスのために考えていた、服を吊したり、洗面具を干したりするヴィジュアルのイメージが、現実のものとして見られるようになった。一時は、そういう光景を舞台に乗せてのいいのだろうか、と真剣に悩んだそうだという。しかし、やはり自身の思い描いた通りのダンスを創ることが重要、として今回の舞台を創った。
「今の私には越えることのできないことがやってくる 未来になったら乗り越えることができているかもしれないけれど 今は未来じゃないし 未来なんて信じられないし そんな未来を含んで乗り越えることなんて今できない だから乗り越えるんじゃなくて抱きしめて未来まで歩いていく 誰かの荷物を持ちながら 誰かの話をききながら・・・・」と作品を創るに至ったプロセスを明かし、「全てを抱擁する カラフルな黒になる」としめ括る。これはプログラムに掲載されている山田うんの言葉だが、率直な気持ちが表れていて胸に沁みた。
(2012年3月11日 シアタートラム)

tokyo1204g02.jpg 撮影/塚田洋一 tokyo1204g04.jpg 撮影/金子愛帆