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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.03.12]

アレクサンドロワ、そして菊地研がプティを偲んで『ノートルダム・ド・パリ』

ローラン・プティ振付 『ノートルダム・ド・パリ』
牧阿佐美バレヱ団

牧阿佐美バレヱ団の創立55周年記念公演『ノートルダム・ド・パリ』には、ボリショイ・バレエ団のプリンシパル、マーリヤ・アレクサンドロワがゲスト出演し、エスメラルダを踊った。ノートルダム寺院の醜い鐘撞き男カジモドは菊地研、司教代理のフロロは中家正博、歩兵隊隊長フュビュスは逸見智彦という配役だった。
ボリショイ・バレエ団の来日公演でも『白鳥の湖』や『ライモンダ』の全幕を主演して堂々たる踊りを披露した、アレクサンドロワは、さすがに安定したじつにバランスの優れた踊りだった。
第二幕のフロロに無実の罪を着せられて絞首刑に処せられるところをカジモドに救われたエスメラルダと、彼女に仄かに心を寄せるカジモドが鐘の揺れを利用して、屈折した感情をアピールするパ・ド・ドゥは素晴らしかった。動きの中に気持ちが込められた踊りで、今回の舞台では最も見応えがあった。アレクサンドロワのヒューマンで豊かな人間性が踊りの中にたくまずして現れ、モダンで独創的な動きがしっかりと組み込まれた振付には、癒やしのこころが感じられた。

tokyo1203h01.jpg撮影/山廣康夫

ヴィクトル・ユーゴーの大長編小説の中から、最も特徴的なカジモドという存在を現代とひびかせ、時代的意味を込めてフューチャーしたバレエである。冒頭のイブ・サンローランの華麗な色彩感覚が圧巻だったが、大仰な宗教的儀式のコスチュームは、以後はバレエの中に登場しない。次に踊る最下層のエネルギーを秘めた人々を際立たせるのと同時に、一般の人たちと豪華な儀式を繰り広げる宗教が、いかに遊離していたかを表している。
フロロは宗教的権威によって、寺院の周辺に屯する最下層の人々の霊性までも支配している。けれどもそれはじつは空虚な権威であって、今では、美しいエスメラルダを我がものとしようとするために生かされている。
一方カジモドは、純粋な愛する心を知り、恩人のフロロに逆らいエスメラルダに罪を負わせて死刑にしたフロロを絞め殺す。外見の醜いものの中に真実がある、ということだろう。

16歳の頃からプティに可愛がられてきた菊地研は、ローラン・プティ追悼の公演でもある今回の舞台には思い入れも一段と熱いものがあったのだろう、気持ちのこもった熱演だった。細身の身体をフルに使い、ボリショイ・バレエ団のスターと堂々と渡り合って、観劇後も余情を感じさせてくれた。さすがにプティの薫陶を受けているだけあって、しかりと人物像を把握していて力量を感じさせる舞台だった。
(2012年2月18日 ゆうぽうとホール)