ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.03.12]

熊川マジックが創った光り輝く『シンデレラ』世界初演、K バレエ カンパニー

熊川哲也 演出・振付『シンデレラ』
K-BALLET COMPANY

K バレエ カンパニーは1999年、熊川哲也によって設立された。当然のことだが、それまでは無かった。さらに言えば新国立劇場は1997年に設立されているわけだから、15年前には日本のバレエ界には、積極的に全幕バレエを制作している二つのバレエ・カンパニーは存在しなかったわけである。調査したわけではないが、おそらく、日本で新制作される全幕バレエは世界的に見ても多いのではないだろうか。震災のあった昨年ですら、『パゴダの王子』『マノン』などの全幕バレエが新制作されている。
そして今年最初の、全幕バレエの新制作はK バレエ カンパニーの熊川哲也版『シンデレラ』。この公演はオーチャードホールの芸術監督に熊川哲也が就任したことを記念したものであり、熊川は出演せず、振付・演出に専念して世界初演を迎えた。

tokyo1203f01.jpg撮影/木本忍

K バレエ カンパニーの『シンデレラ』の初演は、荒井祐子のシンデレラと橋本直樹の王子で観ることができた。私はこのペアとはなかなかタイミングが合わず、久し振りに出会えたのだが、それが『シンデレラ』の初演だったことは幸運だった。そのほかには仙女に佐藤圭、義姉妹には岩淵もも、湊まり恵、義母はルーク・ヘイドンが出演していた。熊川の芸術監督就任記念公演であるだけに、豪華な装置や数多くのダンサーが投入されていた。

シンデレラは、冒頭から義理の姉妹や義理の母の手厳しい苛めの波状攻撃に晒される。特に義母は、シンデレラが今はもう亡くなった実母を未だに慕っていることを憎んでいる。シンデレラが大切にトランクの奥にしまって、ひとりぼっちの寂しさをなぐさめていた母の写真をゴミくずのように暖炉に投げ込んでしまうのだから。
やはりトランクにしまっていた母の思い出を秘めたドレスを取り出して鏡に映してみたりしているうちに、シンデレラはふと暖炉に手をかざすと気持ちが温まり、苛められている現実から空想の世界へと心が開かれていく。シンデレラは義姉妹や義母に苛められても、不平不満に打ちひしがれることは無く、楽しさに溢れる想像の世界へと夢を羽ばたかせることのできる、優しい娘なのだ。けれどもまさかその暖炉の前でみた夢が現実となるとはつゆ知らない・・・。
そして仙女が扮した老女が迷い込んでくるのだが、この導入部の演出は見事だった。特に苛められた後、シンデレラが暖炉に手をかざして暖かみを感じて優しい心を取り戻すところには感心した。演出家が主人公の気持ちにぴったりと優しく寄り添っているのでディティールの印象が鮮やかなのだ。客席の私も一緒に暖炉の温もりを感じることができた。その手のひらに感じた温かさが、次の魔法のシーンのアメージングな気持ちを、いっそう膨らませて豊かなものにする。
そして通常踊られる四季の精のかわりに、バラ、トンボ、キャンドル、ティーカップの妖精たちが様々な工夫を凝らした演出で登場する。また、素敵な馬車を曳く4頭の雄鹿、道化が時計の針をもって12時を知らせたり、オレンジガールやオレンジマンも登場して、つぎつぎと繰り広げられる魔法の時は、ヴァラエティに富んでいて少女の感性に訴える楽しさが溢れていた。その中でも一際、光り輝いたのがシンデレラの純白のドレス。金のケープも美しくまるで、熊川マジックの結晶のように舞台を彩って観客をうっとりさせた。
衣裳と美術もまた素晴らしかった。ソナベンド、トラヴァースとともに創った『くるみ割り人形』とはまた異なった、キラキラと光が美しく映える『シンデレラ』の世界を実現していた。アカデミー賞にノミネートされても不思議ではないバレエ美術である。

荒井祐子のシンデレラは、苛めにじっと耐えながら決して自分を見失わない人物像を全身で踊り、演じた。優しい心を表すのはもちろん簡単ではないだろう。しっかりと演技や踊りのディティールに気を配りながら踊った結果が舞台に現れたのだ。王子を踊った橋本の実力はもう多くの舞台で証明されているが、その俊敏で頭の回転の速い特徴がこの作品でも生きていた。シンデレラと王子のパ・ド・ドゥは、演出の雰囲気と良くマッチした情感を漂わせていた。
もう一度、改めて観たいと思わせる、ぜひ再演して欲しい作品だ。
(2012年2月9日 オーチャードホール)