ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.03.12]

アレクサンドロワがドラマティックに踊った恋する女、ライモンダ

The Bolshoi Ballet ボリショイ・バレエ団
Yury Grigorovich  "RAYMONDA" ユーリ・グリゴローヴィチ振付『ライモンダ』

ボリショイ・バレエのグリコローヴィチ版『ライモンダ』。アレクサンドロワのライモンダ、スクヴォルツォフのジャン・ド・ブリエンヌ、ミハイル・ロブーヒンのアブデラフマンで観た。
『ライモンダ』はプティパの晩年の傑作と言われ、ハンガリーのチャールダッシュなどの民族舞踊をフューチャーした華麗なダンスが特徴的な作品だが、グリゴローヴィチ版はなかなか示唆に富んだ20世紀のバレエとなっている。
物語は周知のように、十字軍の遠征に出立する騎士の婚約者、貴族の令嬢ライモンダが、留守の間にサラセンの騎士に激しく求愛される。しかし帰国した騎士ジャン・ド・ブリエンヌとサラセンの騎士が決闘し、二人は無事結婚するというもの。物語は至極単純だが、中世的世界観と民族舞踊の美のイメージを巧みに融合させて、見応えのあるバレエに仕立てられている。

tokyo1203d_0039.jpg 撮影:瀬戸秀美 tokyo1203d_0046.jpg 撮影:瀬戸秀美

第一幕のライモンダの夢を結婚を控えた彼女の心の不安を象徴的に表す表現としていて、ジャン・ド・ブリエンヌとアブデラフマンがともに夢のなかに登場する。
アレクサンドロワは『白鳥の湖』の幻想の中に存在するかのような神経を張りつめたオデット像とは変わって、恋する女性らしいヴィヴィッドな雰囲気を感じさせる。全編を通しての表現全体で登場人物にリアリティを表す、高度な実力のをみせた。タイトルロールとして、第一幕の婚約者の遠征の間に感じる不安との闘いがじつは自分の中で起っている葛藤であることを示唆する演技。第1幕の夢のシーンのアブデラフマンとのやりとりには、単なる恐怖というよりも、どこか自分の心の弱点を突かれている屈折した表現が隠されていた。そのためか、第二幕ではすべてがクリアされた喜びか弾けて、第一幕とのコントラストがくっきりと現れて印象をつよめた。その心の解放が白を構成した舞踊表現にじつに良く映えていたのである。
ロブーヒンのアブデラフマンはなかなかインパクトがあった。マリインスキー・バレエ団で『イワンと仔馬』の主役イワンを踊っていた時とは、ガラリと変わったイメージをくっきり描いてみせた。俊敏に野性的に動いて、もうすっかりボリショイの人として、オリエンタルなエキゾチズムを一手に引き受けて、舞台を盛り上げていた。意外と現在のボリショイ・バレエ団には、こうした役割を担えるダンサーが少ないのかも知れない。
第二幕の豪華絢爛に白を構成したダンスはじつに見事だった。結婚式の祝典なのだが、ここでもグリゴローヴィチのドラマの中の息の通った登場人物たちが踊っていた。グリゴローヴィチの卓越した創造性が発揮され、今日的な視点により演出された舞台だった。
(2012年2月7日 東京文化会館)

tokyo1203d_0123.jpg 撮影:瀬戸秀美 tokyo1203d_0151.jpg 撮影:瀬戸秀美
tokyo1203d_0570.jpg 撮影:瀬戸秀美 tokyo1203d_0587.jpg 撮影:瀬戸秀美