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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.04.10]

いにしえの悲しみを美しく甦らせた、みちのくの切支丹『マダレナ』

菊池唯夫 原振付、菊池宗 改作、酒井正光 振付『マダレナ』、佐々保樹 振付『ジゼル』第2幕、佐々保樹 振付『ブラック・スワン』
東京小牧バレエ団

小牧バレエ団は今年創立66周年となるが、昨年、創立者小牧正英生誕100年記念公演として予定していた『白鳥の湖』が、東日本大震災の影響により中止となり、日をあらためて今回の『マダレナ』『ブラックスワン』『ジゼル』第二幕の3演目の公演となった。

tokyo1204i01.jpg 『マダレナ』

前バレエ団団長の菊池唯夫が振付けた、みちのくの切支丹『マダレナ』は、幼い頃から歌われてきた子守歌から想を得て、東北の岩谷堂辺りに伝わるキリシタン殉教者の言い伝えに基づいて構想された一幕のバレエだ。
キリシタン武士の後藤寿庵が、逃亡の際に関わった青年マティアスと白拍子マダレナというキリシタン・カップルの殉死を悼む仕舞に寿庵のモノローグが重なって、物語が始まる。
マティアスとマダレナは一目で恋に落ち、許しを得て結ばれるが、南部藩の探索方に踏絵を迫られる。マチアスは踏絵を拒み、マダレナは自ら捕われる。そして60名ものキリシタンが茂庭周防奉行のにより全員処刑される。
下手に花道があり、舞台の背後には鐘楼風の建物がある広場で、マチアスとマダレナのパ・ド・ドゥが踊られ、祝福の宴が開かれる。小牧の出身地である奥州市江刺区の人たちによる原体剣舞(はらたいけんばい)など東北の伝統舞踊も舞われ、人々の楽しい集いが盛り上がる。しかし、南部藩の探索方が現れて容赦ない厳しい詮議が行われる。

tokyo1204i04.jpg 『マダレナ』

衣裳は着物をアレンジしたものだったが、たいへん見事に出来ていた、と思われる。きちんと帯を巻いて踊っても乱れず、かえって着物らしい柔らかい雰囲気が感じられた。時折、前を合わせる仕草なども振付けに挿入されていたが、ごく自然だったし、着物の魅力をいっそう引き立てる動きになっていた。着物の着こなしにそなわっている所作を採り入れて踊り、上手くその良さを生かしていたのだ。最近では新国立劇場のビントレー振付の『パゴダの王子』でも着物が登場したが、やはり、基本的にはガウン風に使っていたから、洋装の中のひとつのヴァラエティだった。しかし『マダレナ』では短い作品ではあるが、すべて着物をアレンジした衣裳で全体を構成して完成度があり、時代劇としてのバレエを成立させる大きな要因となっていたのには感心した。
華やかな祭りや厳粛な剣舞などヴァラエティに富んだ動きで宴は盛り上り、その背景の殉教の悲劇が際だった印象を与えた。さらにプロローグとエピローグには、能の動きにナレーションをかぶせて、黄泉の国からのメッセージとして観客に伝える、という手法はいにしえのできごとを浄化してこころに深く染み込ませた。キリシタン弾圧への怒りのメッセージを直接、観客に発することを避け、美しい踊りによってその深い悲しみを浮かび上がらせるという、洗練された表現も見事。バレエ自体の美しさに迫ったわけではないが、作者は日本的な美しさを知悉しており、それを巧みに使ってバレエに定着した清涼感のある舞台だった。
音楽はオリビエ・メシアンほか、マダレナを藤瀬梨菜、マチアスを風間無限、後藤寿庵を菊池宗が踊った。
『ブラック・スワン』のパ・ド・トロワは長者完奈、香野竜寛、ラグワスレン・オトゴンニャムが踊り、『ジゼル』第2幕は市河里恵、アルタンフヤグ・ドゥガラー、周東早苗、グリゴリー・バノフが踊った。
(2012年3月17日 新宿文化センター 大ホール)

tokyo1204i02.jpg 『マダレナ』 tokyo1204i03.jpg 『マダレナ』
tokyo1204i05.jpg 『ジゼル』 tokyo1204i06.jpg 『ジゼル』