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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.12.12]

フラメンコの表現が際立たせた鍵田真由美による与兵衛の「色悪」

佐藤浩希 構成・演出・振付『女殺油地獄』
鍵田真由美×佐藤浩希 アルテ イ ソレラ

新国立劇場のダンス公演「近松DANCE弐題」のAプログラムは、鍵田真由美×佐藤浩希 アルテ イ ソレラの『女殺油地獄』が上演された。
フラメンコのグループとして、様々な題材に挑戦しているアルテ イ ソレラは2004年に、阿木燿子プロデュース、宇崎竜童音楽による近松作品『FLAMENCO曾根崎心中』を上演している。今回は、近松作品のフラメンコとしては2作目となる『女殺油地獄』に挑戦したのだが、鍵田真由美が主人公の河内屋与兵衛を演じてなかなの熱演だった。

tokyo1112d01.jpg 撮影:鹿摩隆司

「油地獄」を象徴するプロローグに続いて、物語全体がストップモーションとナレーションによって語られる。
人形浄瑠璃や歌舞伎が練り上げてきた濃密な表現、「色悪」とも謂われる登場人物の強烈な観客の心に切り込む存在感をフラメンコにより、どのように再構築して表現するのかというところが、この公演の見所だ。
歌舞伎では、通常、与兵衛は、油を買いたい、と偽って油がたっぷりと溜められた樽からお吉が油を注ごうとした隙を狙って襲いかかる。店先の樽からで零れた油が血に染まり、不気味に流れる中、滑りつんのめりながら修羅場を繰り広げて豊島屋お吉を殺す。その身体がどうにもままならず焦りに焦り、思わぬ方角に滑って行ってしまたり、立ち上がろうとするとすってんころりと転んでしまう様が、チヤホヤされて思い上がった若さが親切な心も理解することが出来ず、自分を律することができないままに悪い方へ悪い方へと突っ走ってしまう、与平衛のいじましい精神性をそのまま表して、観客の心を刺激する。
演出・振付の佐藤は「油」を黒い衣裳を着け黒い板や箱などのオブジェを使ったコール・ドの踊りで表し、その「油」の流れとソリストたちの踊りをダイナミックに動かして、ドラマディックな効果をあげた。サパティアードとギターとカンテが共鳴する音楽(ホセ・ガルべスほか)は迫力があり、与平衛の追い詰められていく心理を極限的表して、そこから居直って理不尽な殺人に走る鍵田・与兵衛の踊りをいっそう引き立てた。そしてそこに鍵田・与平衛ならではの「色悪」が浮かび上がったと感じられた。
衣裳は、全体に着物を思わせる色使いとデザインを上手く使って、フラメンコの油地獄の世界を端的に表現していた。衣裳を見ただけでもすぐに色街の人々と分かるし、与兵衛の象眼風に瑠璃色を配したロングが際立ってひらめき、落ち着かない焦る気持ちを一段と効果的に見せた。
さらに踊り込んでいけば、思うがままにならないと、いっそう悪の道にのめり込んでいく「色悪」のねちっこい心理の奥にある根源的孤独が浮き彫りになるのではないか、そう思った舞台だった。
(2011年11月18日 新国立劇場 小ホール)

tokyo1112d02.jpg 撮影:鹿摩隆司 tokyo1112d03.jpg 撮影:鹿摩隆司 tokyo1112d04.jpg 撮影:鹿摩隆司
tokyo1112d05.jpg 撮影:鹿摩隆司 tokyo1112d06.jpg 撮影:鹿摩隆司