ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.12.12]

バレエの真髄を知悉したライト、ファーマー、吉田都が創った逸品

ピーター・ライト演出、プティパ、チェケッティ、ライト振付『コッペリア』
スターダンサーズ・バレエ団

スターダンサーズ・バレエ団のピーター・ライト版『コッぺリア』は、当初、吉田都とホセ・カレーニョが主演する予定だったが怪我のため、ドイツ、カールスルーエ・バレエ団のファーストソリスト、フラヴィオ・サマランカがフランツを踊った。往年のシュツットガルト・バレエ団のプリマ、ビルギット・カイルが校長を務めるマンハイム・アカデミー・オブ・ダンス出身のブラジル人だ。近年は振付作品も発表しており、ピーター・ライトの推薦により出演することとなったという。

tokyo1112c02.jpg (c)A.I Co.,Ltd.

ライトのストーリー展開はマイムを駆使して極めてオーソドックスで、レオ・ドレーブの音楽と融和して見事だった。
第1幕では吉田都扮するスワニルダの友だちたちとジプシーの一団をバランス良く配し、「麦の穂の踊り」を中心にして娘たちのスローな踊りを巧みに組み合わせて、村人たちの生活空間を浮かび上がらせ、広場の場の雰囲気を表した。ピーター・ファーマーの優れた舞台美術も効果を挙げ、じっくりと落ち着いた舞台を創った。
第2幕は、吉田スワニルダの独擅場。心から少女に成りきってじつに細かいマイム表現を繰り広げる。あまりにもディテールを演じるので周りのダンサーが応じ切れないのではないか、と心配になるほどだった。機械仕掛けの自動的な動きと少女の純粋な心に特有の残酷さが、フェティシズムに取り憑かれたオジサン、コッペリウス博士を痛めつける。そして最後には精魂込めて創った最愛の人形コッぺリアの無惨な姿を、はしなくも晒されて大いに落ち込む。
ところが第3幕になるとコッペリウス博士はコッぺリアの修理代を請求する。秘密の部屋に無断で侵入したスワニルダは、やむなく、領主から贈られた結婚のお祝いのお金を渡す。とはいえ、フランツの浮気心に手を焼いた末、やっと愛を確認し合った二人の結婚を祝うお金を取り上げるのは、そりゃあんまりだ、と思ったのかどうか、そっとお金を返すコッぺリウス・・・。貴族の社会とは異なった、純朴な村人たちの社会ならではの心の有り様を描いた素敵な表現だった。
「時の踊り」「暁」「祈り」「仕事」「婚約」「戦い」をモティーフとしたダンスが踊られ、ラストはお待ちかね、吉田都とサラマンカの「平和」。吉田都の繊細な動きを組み立てて豪華な香りを漂わす踊りには感服させられた。サラマンカも若いブラジリアンらしくバネを感じさせるキレのいい踊りだったが、即席のパートナーだから仕方ないのだが、サポートはもうひとつだった。
そして、あの名曲にのって全員でゴーダを踊ったのち、なんと人形のコッぺリアが踊りだしたのだ。コッペリウス博士が渾身の技術を尽くしても創れなかったコッペリアの命が、結婚する二人の愛へのピュアな心遣いから生まれたのだろうか。今、授かった命をいとおしむかのような優しい慈愛の気持ちが現れた踊りだ。この瞬間にコッぺリウス博士はもちろん、村のすべて人たちが観客とともに救われた。純粋な心のやりとりを結実させる、じつに心憎いエンディングだった。ライト、ファーマー、吉田というバレエの真髄を知悉したトリオが創った逸品だろう。
(2011年10月31日 ゆうぽうとホール)

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