ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.11.10]

シェイクスピアが『ソネット』で描いた世界がダンスになった!

中村恩恵、首藤康之 構成・演出、中村恩恵 振付
Shakespear THE SONNETS シュエイクスピア『ソネット』
tokyo1111f03.jpg 撮影:鹿摩隆司

中村恩恵と首藤康之によるShakespeare THE SONNETSは、シェイクスピアの作品に登場する著名なキャラクターのイメージとダンサー自身の身体表現により、『ソネット』に描かれた人間の存在の有り様を象徴的に浮かび上がらせる、というたいへん素敵なダンスだった。
下手よりに詩人のデスクが置かれ、中央奥に大きな鏡が据えられた化粧台がありキャンドルが灯されている。基本的に常にこの灯りが光りを発していて、全体のシェイクスピア作品らしい時代的、演劇的な雰囲気を醸し出していたが、ダンスに応じた照明ももちろん使われる。

1場は詩人が書物を紐解くかのようなパフォーマンスで始まった。詩人がデスクから「ロミオ」と呼びかけて、化粧台の前に座っていたロミオとおぼしき人物の口髭やかつらを取り、上着を脱がすとジュリエットに。そして詩人はいつの間にかロミオとなっていて、美しいパ・ド・ドゥを踊る。ジュリエットはまたもや、シェイクスピアが『ソネット』で歌ったダークレディへと変貌して、美青年と濃艶な踊りを繰り広げる。男性と女性が次々と変貌する様をダンスとして表す、というじつに瀟洒なコクのある手法。コンテンポラリー・ダンスによって『ソネット』という作品の世界を解き明かしてみせたのだが、凡百の文章よりもはるかに説得力があった。シェイクスピアが観たら、思わず「ガッテン」したのではないだろうか。

tokyo1111f01.jpg 撮影:鹿摩隆司

2場では、オセロとデズデモーナのトルソーを使った黒をモティーフにした踊りと、パックとタイターニアや『ヴェニスの商人』のシャイロックが踊られた。3場では二人はともに見分けのつかない美青年となって、しばし踊るが、かつらと衣裳と靴を脱いで、虚飾ない男と女の姿となって美しいパ・ド・ドゥを踊る。ここがシェイクスピアが『ソネット』で試みた「三位一体の不可能性を舞台の上で一瞬でも可能たらしめられれば」と言うシーンなのだろうか。詩人が造型した人間という存在を旅してそのゴールに「真・善・美」がみえただろうか。それは観客の胸に映った影像が知っているはずだ。
3場の構成も1場の『ロミオとジュリエット』の真実の愛、2場の『オセロ』と『ヴェニスの商人』の善と悪、3場の虚飾を取り去った男と女の創る美、という構造と呼応しているのだろう。
シェイクスピアの『ソネット』をこのような構成のコンテンポラリー・ダンスにする中村の着想と造型力は誠に素晴らしい。大いに讃えたいと思う。加えて首藤の鮮やかな表現力は見事というしかない。これはで積極的に取り組んできた種々のジャンルのパフォーマンスで得た経験が、すべて血になり肉となって豊穣に結実している。感服した。
新国立劇場はこれだけの作品を制作することができたのだから、日本のコンテンポラリー・ダンスの実力を知らしめるためにも、ぜひとも、英国でも上演できるように努力してしてもらいたいと思った。英国のビントレーというソフトを使わしてもらっているのだから、こちらからも最新のシェイクスピア作品をお贈りしたらいかがだろうか。
(2011年9月30日 新国立劇場 中劇場)

tokyo1111f04.jpg 撮影:鹿摩隆司 tokyo1111f02.jpg 撮影:鹿摩隆司