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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.09.12]

志賀育恵がマイムと踊りでスワニルダの気持ちの流れを表した

日生劇場ファミリーフェスティヴァル2011 石井清子振付『コッペリア』
東京シティ・バレエ団
tokyo1109d01.jpg撮影:三枝近志

日生劇場ファミリーフェスティヴァルは毎年、夏の盛りに開催され、今年は19回目を迎えた。ミュージカル、クラシック・コンサート、ミュージカル人形劇が上演され、バレエは東京シティ・バレエ団の『コッぺリア』だった。石井清子演出・振付で、志賀育恵のスワニルダと黄凱のフランツ、青田しげるのコッペリウスで観た。夏休みのファミリー向け公演ということで、幕開け前にバレエのマイムについての解説があった。このバレエの劇中で使われるマイムを衣裳を着けたダンサーが実演して、それが表す意味を説明した。なかなか手際のいい解説で、客席の子どもたちがマイムに関心を持ったような反応が現れていた。

石井清子の演出は、コッペリウスのマッドサイエンティスト的な世界には深く触れず、スワニルダとフランツの結婚に絞って物語を進める。第1幕では、恋人たちの愛を確かめ合う麦の穂の占いを、マズルカやチャルダッシュを次々と明るく楽しく踊りながら繰り広げ、クライマックスとなる第2幕へと繋げた。
このバレエの見せ場となる第2幕では、以前から興味津々だったコッペリウスの秘密の部屋に忍び込む女の子たちの可愛らしい茶目っ気を、スリリングに舞踊表現をじつに巧みに使って生き生きと表し、客席の子どもたちにも大いに受けていた。そしてコッぺリウスが突然、帰宅すると蜘蛛の子を散らすように霧散した少女たちの中で逃げ遅れたスワニルダは、人形のコッペリアになりすます。そこにスワニルダを追いかけてフランツが浸入してきた。たちまちアイディアの閃いたコッぺリウスは、フランツを酔わせ、心血を注いで創ったコッペリアに彼の魂を注入しようと試みる。スワニルダがコッペリアに変装しているとも知らずに----。すべてを知ったスワニルダは、コッペリウスを散々に翻弄して、フランツを助け、手に手を取って脱出に成功する・・・。ダンスも演技も充分に楽しめるように作られた、じつに良くできた物語だ。

志賀育恵はマイムと踊りとスワニルダの気持の流れをスムーズに表して好演。全幕物の主役としての表現が深まり、安定感のある踊りだったので観客は大いにこのバレエを楽しむことができたはず。もちろん演出・振付も配慮がよく行き届いており全体を上手くまとめていた。ただコッぺリウスの人形創造へのフェテッシュなこだわりはあまり描かれていなかった。美への執着をもっともっと極端な表現で表してもよかったのではないだろうか。
黄凱はコミカルなタッチで登場人物を表現することに成功していたが、第2幕以降にはあまり表現する場が与えられなかったのは少々残念だった。「祈り」のダンスとスワニルダの友人を踊った若林美和が雰囲気を感じさせる良い踊りをみせ印象に残った。
そしてこのバレエを観るたびに思うことではあるが、レオ・ドリーブの音楽が素晴らしい。起伏に富み様々な色合いを秘めたメロディが、時折ユーモラスな味を漂わす軽快なリズムと見事なバランスをみせて、爽やかなしかしいささか人生への感慨を含んだしみじみした情感を堪能させてくれた。後味の良い素敵なバレエだった。
(2011年8月26日 日生劇場)