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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.08.10]

ブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』の楽しい舞台

オーギュスト・ブルノンヴィル振付『ラ・シルフィード』
関直人振付『クラシカル シンフォニー』
井上バレエ団
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井上バレエ団が芸術監督の関直人の舞踊生活65年を記念して『クラシカル・シンフォニー』と、初演から175年を迎えたブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』全幕を上演した。
井上バレエ団は、元デンマーク王立バレエ団のプリンシパルで前芸術監督でもあったフランク・アンデルセンをゲストに迎えたことを良い機縁として、ブルノンヴィル・スタイルの修得に務めている。25年にわたってアンデルセンとエヴァ・クロボーグ夫妻を招いて指導を受け、1999年には『ラ・シルフィード』全幕を初演し、2005年にはブルノンヴィル生誕200年を記念して再演し、大きな成果を上げた。
今回は、1836年のブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』コペンハーゲン初演から175年にあたることを記して上演することになった。(『ラ・シルフィード』がパリで初演されたのは1832年)
ラ・シルフィードはデンマーク王立バレエ団のプリンシパル、グドラン・ボイエセンと宮嵜万央里のダブルキャストだったが、私は宮嵜の日を観た。ジェイムス役はパリ・オペラ座のプルミエダンスール、エマニュエル・ティボーが両日を踊った。

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宮嵜はオープニングからこの作品の劇的心理をよく理解した演技表現を創って踊った。ジェイムスの心の中の映像としてのラ・シルフィードを、儚げでコケティッシュな情感を漂わして踊った。表情もはっきりしており、マイムも無難にこなし、演技表現から踊りに移っていく際も自然でスムーズな流れを崩さない。シルフィードのふわっとした浮揚感を踊りと演技で巧みに表し、ティボーとのパートナリングも上手くまとめていた。初役だが、主役としてなかなかの成長ぶりを見せた。
もちろんそれはまた、ティボーの軽やかで弾むようなダンス、グエンに扮したデンマーク王立バレエ団のクリストファー・リカートの演技力、魔女のマッジに扮しこの作品の再振付者の一人でもあるエヴァ・クロボーグの力強いマイム、などに助けられたからであろう。
第二幕では魔女のマッジが、グエンにエフィをものにするための指示を具体的に行い、ジェイムスへは憎々し気に呪いのかかったスカーフの嘘の効用を教える。マイムを台詞と同等の具体的表現として駆使し、じつに明快でドラマティックな効果を現した。
エヴァ・クロボークはデンマーク王立バレエ団で40年以上のキャリアを過ごし、現在はキャラクターアーティストを務めている。世界中のカンパニーに教師として招かれて活躍し、デンマーク王女よりナイトの称号も授かっている。
井上バレエ団が創ったブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』は、無駄な表現がなく演出の配慮とダンスの流れが融合し、展開がスムーズでありかつ劇的な迫力に富んでいた。

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関直人振付、プロコフィエフ音楽の『クラシカル・シンフォニー』は、背景を半ば開けてダンサーたちが次々と元気よく登場する。
白とピンクのチュチュが美しく映え、ソリストが中央で踊る華やかなオープニングに続いて、ちょっと神経質なくらいに細かな気配りを感じさせる舞台が進む。緩やかな気分が流れる第一楽章。男性ダンサー三人とそれぞれのソリストがペアを組んだ踊りが中心の第二楽章は、プロコフィエフの美しいメロディが響いて、多くのコール・ドが踊った第一楽章とのコントラストを印象づけた。第三楽章はゴーダのごとく、全員が登場して美しい彩りを描く。
特別な難しいテクニックを強調するわけではなく、優しく平易に話しかけるような振付が素敵だった。丁寧に細かに剪定が行き届き、よく整えられた庭園のようなバレエだった。敢えて欲を言えば、動きの流れの中にさらに一層の躍動感を表してほしいとも思った。
(2011年7月17日 文京シビックホール 大ホール)

撮影:スタッフ・テス根本浩太郎
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