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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.08.10]

円熟味を増したルグリの演技が光った、新しき世界のガラ公演

New Universe of Manuel Legris II - magic moments from past and present:
Program B 〈Gala performance〉
≪マニュエル・ルグリの新しき世界 II ≫:Bプロ〈ガラ公演〉
tokyo1108d01.jpg 「ビフォア・ナイトフォール」
photo:Kiyonori Hasegawa

東日本大震災と福島第一原発の事故の影響のため開催が危ぶまれていた≪マニュエル・ルグリの新しき世界 II ≫が、大幅な出演者と演目の変更を余儀なくされながらも、開催を願うルグリの尽力により実施されたことを、素直に喜びたい。
2009年にパリ・オペラ座バレエ団を退団後、2010年9月のウィーン国立バレエ団芸術監督就任を控えて、それまで行ってきたシリーズ≪ルグリと輝ける仲間たち≫を一新し、
≪マニュエル・ルグリの新しき世界≫を立ち上げ、新たな旅立ちを告げる公演を行ったのが2010年2月。今回の話題だったパリ・オペラ座バレエ団のオレリー・デュポンとルグリの“最後の共演”は叶わなかったが、ウィーン国立バレエ団の期待の若手を中心に、魅力的なゲストの参加を得て公演に臨んだ。Aプロ〈ルグリ&東京バレエ団〉とBプロ〈ガラ公演〉のうち、Bプロを観た

第1部の幕開けは『ビフォア・ナイトフォール』(N・クリスト振付)で、ニーナ・ポラコワとミハイル・ソスノフスキーが激しい感情のほとばしりをドラマティックに表現した。ほかに、東京バレエ団から高村順子&宮本祐宜ら3組の男女が出演した。ヌレエフ振付『ドン・キホーテ』のパ・ド・ドゥをそつなく手堅く踊ったのは、リュドミラ・コノヴァロワとデニス・チェリェヴィチコ。特に後者は身体をしなやかに揺らし、ヌレエフ版らしい細かな脚さばきを見せた。
『モペイ』(M・ゲッケ振付)を踊ったのは、ウィーン国立バレエ団の準ソリスト、木本全優。黒のロングパンツに上半身裸で、しなやかな腕や身体の動きに揺れ動く内面も伝えて秀逸。前回これを踊ったフリーデマン・フォーゲル(シュツットガルト・バレエ団)とはまた異なる味わいを見せ、ルグリの大抜擢に見事に応えた。

tokyo1108d05.jpg 「クリアチュア」
photo:Kiyonori Hasegawa

そのフォーゲルは、同じバレエ団のマリア・アイシュヴァルトと組んで『椿姫』(ノイマイヤー振付)より第2幕のパ・ド・ドゥを踊った。見つめ合う眼差しで観る人を作品の世界に引き込み、高まる感情をリフトに込めて濃密な愛のドラマを紡いだが、途中、もつれたようなのが惜しまれた。
『クリアチュア』はルグリが高く評価するパトリック・ド・バナによる、生けるものの内面を探る作品で、今回はパ・ド・ドゥのみの上演。音楽がエキゾティックな雰囲気を醸す中、体を自在に制御するパトリック・ド・バナの硬質な動きと、腕や身体を伸びやかに操る上野水香の踊りが、軽妙に響き合った。上野の個性に合った作品に思えた。続いて『マノン』(マクミラン振付)より第1幕のパ・ド・ドゥをポラコワとルグリが踊った。ルグリは青年デ・グリューになりきったように溌剌とステップを踏み、軽やかにマノンをリフトし、燃え上がる恋心を入念に表現した。ポラコワも、初々しさの残る可愛らしいマノンを好演。第1部を締め括るにふさわしい熱演だった。

第2部は、パトリック・ド・バナによる自作自演の『サイレント・クライ』で始まった。黒のパンツのみで踊る彼の心と体が、バッハのピアノ協奏曲第1番よりのラルゲットにのせて沈潜し、浮遊するような、インパクトのある小品だった。
『グラン・パ・クラシック』(グゾフスキー振付)では、コノヴァロワがボリショイ・バレエのドミトリー・グダノフと組み、安定感のある踊りを見せた。
イリ・ブベニチェク振付『カノン』は、客席に向けて3個の強烈なライトが放たれる冒頭が印象的な作品で、パッヘルベルの音楽にのせて男性ダンサーによるトリオが展開される。ウィーン国立バレエ団のチェリェヴィチコ、ソスノフスキー、木本が踊ったが、このような振りにあまり慣れていないのか、硬さが取れておらず、身体の躍動感は今一つ。最も自然でたおやかな動きを見せたのは木本だった。

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(バランシン振付)では、バルボラ・コホウトコヴァとフォーゲルが美しいフォームで端整に舞った。中でも、フォーゲルの滑らかな跳躍や開脚の美しさが際立った。最後に置かれたのは、アイシュヴァルトとルグリによる『オネーギン』(クランコ振付)より第3幕のパ・ド・ドゥ。心の揺れ動きを体で繊細に奏でるアイシュヴァルトと、苦悩を滲ませながら渾身の力で愛を訴え、すがるルグリ。緻密に構成された振りやリフトで表わされる二人の心のせめぎ合いを、迫真の演技で伝えたルグリとアイシュヴァルトの力量に圧倒された。今回の〈ガラ公演〉では、円熟味をさらに加えたルグリを知ることはできたが、残念ながら新境地は見られなかった。次回はどのような「新しき世界」を披露してくれるのか、期待したいと思う。
(2011年7月15日、ゆうぽうとホール)

tokyo1108d02.jpg 「ドン・キホーテ」
photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1108d03.jpg 「モペイ」
photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1108d04.jpg 「椿姫」
photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1108d06.jpg 「マノン」
photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1108d07.jpg 「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1108d08.jpg 「オネーギン」
photo:Kiyonori Hasegawa