ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.08.10]

秀逸だったケントが描いたジュリエットとゴメスが踊ったロミオ

Choreography by Sir Kenneth MacMillan "ROMEO and JULIET" ABT
サー・ケネス・マクミラン振付『ロミオとジュリエット』 ABT
tokyo1108c01.jpg 撮影/瀬戸秀美

ABTの『ロミオとジュリエット』はケネス・マクミラン版だ。ジュリー・ケントとマルセロ・ゴメスのペアで観たが圧巻だった。
良く指摘されるようにマクミラン版の『ロミオとジュリエット』は、少女ジュリエットが極めて過酷な条件の中で、ロミオとの愛を貫くために、崇高なまでに純潔な行動をとる姿を真迫力を持って描いている。ジュリエットを踊るダンサーは、そのぴりぴりと張りつめた精神性を全身をもって表現することになり、それぞれのジュリエット像が現れ観客の心に刻印される。もちろん数多くの名前を挙げることはできるが、かつてそれはブラジルの血を引くマーゴ・フォンテーンのジュリエットであり、イタリア人のアレッサンドラ・フェリのジュリエットであり、近くはスペインのタマラ・ロホのジュリエットであった。
あまりラテン的な情熱を感じさせず、クールビューティという形容が相応しいジュリー・ケントが踊ったジュリエットはどうか。

tokyo1108c03.jpg 撮影/瀬戸秀美

ケントのジュリエットは素直にゴメスのロミオに身をまかせる。それをゴメスが真摯にうけとめる。ゴメスは凄い集中力で底知れないエネルギーを身体から発して踊る。ケントはその愛のパワーに素直な愛する心で身を任せ、バルコニーのシーンでは、じつにバランスのとれた幸せな光景が出現した。
そして後半。ロミオと初めての夜を過ごし彼がヴェローナを追放されて去る。その悲しみにくれる間もなく、パリスとの結婚を両親から迫られる。ジュリエットの両親も一族の要、ティボルトを失って焦燥感に駆られているのだ。ジュリエットに許されたのは、ロミオが去って行ったバルコニーの窓にその残像を想い浮かべることだけだった。しかし懸命の思案の末、ロミオとの結婚を司った神父の元に走り、仮死状態になる薬を手に入れ、ついには死を賭す決意で服用する・・・。この一連のシーンのケントは秀逸だった。ロミオの愛に応えていた幸せな世界から、全責任を負う非常に難しい判断をくだして家族とも対立して戦わなければならない。ケントのジュリエットからは、恋の情熱という騎馬に跨がって疾走する姿ではなく、すべてを信じて愛する心を守る不屈の信念が感じられた。
やはり、マクミランの振付という器は、そこに盛られる料理をさらに美しく輝かす逸品なのである。
マキューシオに扮したクレイグ・サルステインが優れたダンスと渋めの演技で、ヴェンヴォーリオに扮したシムキンが軽快な剣さばきで、ティボルトに扮したゲンナディ・サヴェリエフが厳しい存在感を示して、それぞれ熱演だった。
(2011年7月26日 東京文化会館)

tokyo1108c02.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1108c04.jpg 撮影/瀬戸秀美