ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.08.10]

マーフィーとホールバーグによる『ドン・キホーテ』

Choreography after Petipa and Gorsky Staged by Kevin McKenzie and Susan Jones "Don Quixote" ABT
プティパ、ゴールスキー原振付、ケヴィン・マッケンジー、スーザン・ジョンズ振付改訂『ドン・キホーテ』ABT
tokyo1108b06.jpg 加冶屋、シムキン 撮影/瀬戸秀美

ABTの『ドン・キホーテ』といえばバリシニコフ版が良く知られていた。このヴァージョンでは、バジルはエスパーダと張り合って、酒杯を重ねながら踊りを競う。バリシニコフ扮するバジルは、すこしづつ酔いが回っていく様を秀逸な演技と絶妙の踊りで見事に表現する。しかしこれは至難の技であって、いうなれば個人的表現力の依拠したヴァージョンといえるのかもしれない。
今回の来日公演で上演される『ドン・キホーテ』は、プティパ、ゴールスキー版に基づいて芸術監督のケヴィン・マッケンジーとスーザン・ジョーンズが振付を改訂したものである。
現在レパートリーになっているABTの『ドン・キホーテ』は、物語の展開が理にかなっており非常にスムーズだった。そしてほとんどのシーンでダンスと併行してコミカルな小さな芝居が行われており、舞台のどこを観ていても楽しく明るい気持ちで鑑賞できるバレエになっている。若き日のプティパが体験したスペイン情緒をたっぷりと盛り込んだ原振付のスピリットを活かして、スパニッシュ風のテクニックのスパイスを効かしたダンスがスペインの陽光の下に繰り広げられる。
また、ドン・キホーテのドルシネア姫への憧憬は、カソリックの国スペインの文化を映したか、マリア信仰を彷彿させるところがあった。

tokyo1108b05.jpg 加冶屋、シムキン 撮影/瀬戸秀美 tokyo1108b07.jpg 加冶屋、シムキン 撮影/瀬戸秀美
tokyo1108b04.jpg マーフィー、ホールバーク 撮影/瀬戸秀美

今回の『ドン・キホーテ』公演の初日となる7月23日に、ジリアン・マーフィーのキトリ、デイヴィッド・ホールバークのバジルというペアで観た。マーフィーはじつにチャーミングにキトリを見せた。明るい心と爽やかな身体が弾むような伸びやかな演技と踊りだった。ホールバーグのバジルも端正な床屋のちょっととぼけた味も感じさせて楽しませてくれた。
メルセデスと森の精の女王を踊った黒髪のステラ・アブレラが良かった。キャリアを見たら、95年に英国のアデリーン・ジェネー賞の金メダルを受賞しているという。おそらくABTには欠かせないソリストだろう。もうひとり、ロマのカップルの女性を踊ったミスティ・コープランド。第2幕のロマの野営地のシーンでは、一際輝いて見えた。彼女はサンフランシスコ出身でABTのスタジオ・カンパニーから入団したソリストだった。
駆け落ちしたキトリとバジルは、夜のロマの野営地に迷い込むが、すぐに仲良しになってしまうといったフレンドリーな感覚が、いかにもABTらしくおもしろかった。ガマーシュも意外にいい奴だったし・・・。やはり、『ドン・キホーテ』はABTの舞台の素晴らしさを現す看板演目である。
(2011年 東京文化会館)

tokyo1108b01.jpg マーフィー、ホールバーク 撮影/瀬戸秀美 tokyo1108b02.jpg マーフィー、ホールバーク 撮影/瀬戸秀美