ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.08.10]
今年は震災の影響で発表会が予定通りに開催できなかったバレエ団も多いと聞く。原発事故は未だ収束の兆しすらみえないが、発表会はようやく順次行われているようだ。最近の発表会はレベルがかなり上がっており、意欲的な演し物がプログラムされることもある。バレエを踊ることを通じてお互いの心を理解し、より広い交流の輪が広がっていくことは素晴らしいこと。先日、ローラン・プティの逝去が報じられて、ほとんどの20世紀の偉大な振付家は黄泉の国へと旅立ってしまった。しかしまた、バレエ芸術の新しい担い手が成長してくることは間違いない。

ABT引退の舞台に立ったホセ・カレーニョに大きな喝采が贈られた

Opening Night GALA AMERICAN BALLET THEATRE
「オープニング・ガラ」ABT
tokyo1108a02.jpg 「ディアナとアクティオン」撮影/小川峻毅

ABTのオープニング・ガラの幕開けはバランシン振付による、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第3番『アレグロブリランテ』。
淡い浅黄を基調としたコール・ドとピンクがかったベージュとグレイのパステル調の衣裳を着けたプリンシパルのペアが踊って、穏やかで温かい雰囲気を醸す。当然だが、作曲した時のチャイコフスキーの呻吟とは無縁の明るいイメージだ。動きは曲名通り軽快でテンポが速く華麗。ピアノがオーケストラをリードし、旋風のように全体の流れを巻き込んでいく曲とともに、シーンの転換を頻繁にくり返し、複雑なフォーメーションを息もつかせず展開していく。軽快なテンポと華麗なフォーメーションと柔らかな衣裳の雰囲気が音楽の勢いと微妙なバランスをみせ、それが振付家の高く鋭い美意識を表している。
衣裳デザインはバランシンと多くの仕事を行ったロシア出身のカリンスカ。
プリンシパルのパロマ・へレーラとコリー・スターンズが、ドラマティックなデュエットを踊り、小気味よく舞台を引き締めた。

次は、映画『ブラック・スワン』の振付を担当し、ナタリー・ポートマン扮する主人公ニーナと踊り、さらにポートマンとの間に一子をもうけるという超絶技巧をみせ、一躍、世界的に名を知られるようになったベンジャミン・ミルピエ振付の『トロイカ』だった。その影には涙しているバレリーナもいるとの噂だが・・・閑話休題。
『トロイカ』は、世界一身軽る、ともみえるダニール・シムキンを中心にした男性ダンサー三人が踊った。バッハの『無伴奏チェロ組曲第2番、第3番』の生演奏に合わせて踊られるのだが、稽古場でリハーサルでもしているようなリラックスした踊り。三人が連なって踊り、同じ技を繰り返したり連鎖したり、お互いに肩に腕をのせ合うなど終始フレンドリーな気分が横溢した舞台。衣裳も稽古着をお洒落にしたようなもので、荘厳な音楽がこの楽しいダンスに意外に似合っているのがおもしろかった。
ヴェロニカ・パールトとアレクサンドル・ハムーディは、ABTのアーティスト・イン・レジデンツに就任して活躍しているアレクセイ・ラトマンスキー版『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥを踊った。これは昨年の12月に、初めてABTのために振付けた全幕作品。ラトマンスキーらしい音楽にしっかり寄り添ったダンスだった。

tokyo1108a01.jpg 「くるみ割り人形」撮影/小川峻毅 tokyo1108a03.jpg 「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」撮影/小川峻毅 tokyo1108a04.jpg 「椿姫」撮影/小川峻毅

そして、16年間ABTのプリンシパル・ダンサーとして世界にその名を示したホセ・カレーニョの引退となる来日公演の最初の舞台は、得意の演目『ディアナとアクテオン』。パートナーはシオラマ・レイエスだった。この舞台を縦横に跳び交う演し物は、確かにカレーニョに似合っている。スピードに乗った美しい柔軟な動きからぴたりと決まる瞬間に感じられる魅力的なインパクトは、やはり、カレーニョならではのものとして、長く日本のバレエ・ファンの心に留まるに違いない。しばし喝采の大きい波は収まることはなかった。
バランシン&チャイコフスキーの『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』は、イザベラ・ボイルストンとアンヘル・コレーラ。カレーニョと同じ95年に入団したアンヘルは、自身が主宰するスペインのバレエ・カンパニーのための仕事をABTの理解を得て進めている。その影響でABTの舞台に立つ機会が少なくなっているそうだが、日本公演には元気な姿を見せて参加している。ABTのスタジオ・カンパニー出身の美貌のダンサー、ボイルストンと涼風がたなびくような爽やかな舞台だった。
『椿姫』第3幕の<黒>のパ・ド・ドゥは、ジュリー・ケントとマルセロ・ゴメス。『椿姫』のシチュエーションにぴったりのペアだ。ショパンのメロディにのせて、愛するが故に別れなければならないと思いつつさらに愛が募っていく、という葛藤を踊る。やや人生に熟んで控え目に生きている成熟した女性の内に秘められた激しい情熱が、ケントの美しい横顔やほっそりとした手足の微妙な動きの中で息づく。一方、ゴメスの錐のように鋭い集中力が、愛するケントの身体を抱きしめ「なぜだ、なぜ別れなければならないのか」と、充分にその答えを承知している理性を撥ね除けて身体を踊らせた。技巧的表現を超えて、ダンサーの存在感がそのまま演じているような、希有の舞台だった。

tokyo1108a05.jpg「THIRTEEN DIVERSIONS」
撮影/小川峻毅

最後は、ニュ−ヨーク・シティ・バレエで初めての常任振付家となり、その作品が注目を集めるクリストファー・ウィールドンが。母国英国を代表する作曲家、ベンジャミン・ブリテンの『デヴァージョンズ』に振付けた作品。
テーマが演奏されて、そのヴァリエーションがレスタティヴ、行進曲、コラール、夜想曲などの10音楽形式(このバレエでは12のパート)によって演奏されていく曲とともに、様々なフォーメーションを背景の色彩を変化とともに展開していく。4組のソリストのペアを中心としたウィールドンならではのシャープで変化に富んだ造型力が見もの。NYCB流のスピードにのった複雑で多くのダンサーによる舞台空間の華麗な変幻が、めくるめくように流れていく。斬新で洗練されかつエッジの利いた作品で、まさにガラ・パフォーマンスをしめ括るに相応しい興奮を客席にもたらした舞台だった。
(2011年7月21日 東京文化会館)

tokyo1108a06.jpg「THIRTEEN DIVERSIONS」撮影/小川峻毅 tokyo1108a07.jpg「THIRTEEN DIVERSIONS」撮影/小川峻毅