ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.07.11]

ゴッホの絵画とドビュッシーのオペラに触発された『Almond Blossoms』

キミホ・ハルバート:振付『Almond Blossoms』、
石山雄三:振付『QWERTY』、上島雪夫:振付『Nat King Cole Suite』
新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future 2011
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新国立劇場の「DANCE to the Future 2011」は3作品が上演された。
まず、キミホ・ハルバートの『Almond Blossoms』。彼女はアントワープ・バレエ学校で学び、アメリカのコロラド・バレエ団で踊った後、開場した新国立劇場のバレエ団でもダンサーとして活躍。最近はしばしば清新な振付作品を発表している。ゴッホの絵画「花咲くアーモンドの枝」とドビュッシーのオペラ『ぺアリスとメリザンド』から触発された作品という。
舞台には水面に浮かんたアーモンドの花びらが波紋を描いているかのように並べられている。奥の天には、花びらで作られたゆりかごのようなオブジェが大小ふたつスモークの中に吊るされ、そこから花びらが滴のように舞い散っているようにも感じられる。天使が戯れているような神秘的な神話の世界だが、フェミニンな感覚がうつろっていて癒される。
酒井はなと山本隆之を中心とした淡いグリーンがあしらわれた衣裳の男性5名、女性5名のダンサーが、ドビュッシーの曲に押されるかのように、客席に向かって歩んで天に向かって指を突き上げる。男一人がフロアにうずくまっているのにはかまわず、男女のペアが明るい楽しげなステップを踏む。春を歌うかのような整然とした清潔なダンス。立体感があって自然と生命が融和している美しさを表す、キミホ・ハルバートらしいオープニングだった。その後、ドビュッシーの曲が流れる中、男女のリアルな表現が踊られ、ひとつのカップルの愛と別れがビターな感覚をともなって踊られていく。
印象派の表現を使って愛と悲しみを辿り、希望に到達しようと願ったダンスで、女性らしい細やかな感覚が美しいシーンを創った。

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続いて2006年の新国立劇場「Dance Exhibition」でも踊られた石山雄三振付『QWERTY』。身体とデジタルメディアを同時に捉えてダンスを創ろうという試みだった。
最後は大ヒット作『テニスの王子様』シリーズやミュージカル作品の振付けで知られる上島雪夫の『Nat King Cole Suite ナット・キングコール組曲』。「シルキー・ヴォイス」とプログラムに書かれていが、かつてナットキングコールの声は「ビロード・ヴォイス」と讃えられていはず、と思わず気になってしまった。それはともあれ、バリシニコフが踊った『シナトラ組曲』の甘いとろけるような強烈な陶酔感が未だ忘れられず、この作品には大いに期待を抱いていた。
新国立劇場バレエ団のトップダンサーたちが次々とナット・キングコールの曲にのって踊った。どうももっと素敵な歌があるのに・・・と思ってしまったが、ダンサーたちはさすがによく訓練されている。小野絢子と福岡雄大は、今シーズン後半の大作『マノン』でペアを組むことになっている新国立劇場バレエ団の期待の星。良いパートーナーシップを築いてもらいたい。
クラシック・バレエで訓練された身体にジャズの感覚が宿ると、時に化学反応が起って希有の魅力を発することがある。ヒップホップも見事だったし、ジャンルを越えてチャレンジすることは素晴らしいことだ、と改めて思った。
(2011年5月28日 新国立劇場 中劇場)

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撮影:鹿摩隆司
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