ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.07.11]

キリアンが描いた厳粛なる美の空間『ブラックバード』

DEDICATED "blackbird" "Jekyll & Hyde"
イリ・キリアン:振付『ブラックバード』首藤康之、中村恩恵
小野寺修二:構成・演出『ジギル & ハイド』首藤康之
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首藤康之は今年の大震災を体験して自問自答した結果、この『DEDICATED』公演を開催することで少しでも前に進んで行ければと願う、と語っている。
まずは、イリ・キリアンが中村恩恵のために2001年に振付けた『ブラックバード』からのデュエット。これは「命が誕生し、様々な体験を経て老いていきまた一人になり去って行くまで」を中村がソロで踊る作品だが、その中で映像で登場する男性ダンサーとのデユエットを中村と首藤が舞台で踊るもの。初演時にもこの部分はドイツなどで上演されている。
今日では様々のコンテンポラリー・ダンスが盛んに踊られている。この『ブラックバード』は、中村恩恵が舞台奥で踊り始めただけで、そうした様々なダンスの中にあって、美しさの格が違う。一種厳粛な空気をともなった美が劇空間を完全に支配した。
音楽と動きの本質が深く共鳴し、観客の存在の感覚の深部を揺さぶる。音楽と動きが融合することによって動きの質が高まり、人間の始まりと終焉を夢の中で旅するかのよう。得もいわれぬ天国を垣間見たような魅力的な体験を、わずか数分の内に味わうことができた。

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一方、小野寺修二が初めてチャレンジしたソロ作品『ジギル&ハイド』は、鏡やテーブル、椅子などの道具類を駆使して、人間の実存の不条理というか、メンタルのあるいは心理の不可思議、矛盾、面白さなどを才気煥発の様々な表現によって顕在化させてみせる。首藤は、ビーカーの薬だったり、テーブルや椅子、巨大な鏡やそのフレームに規制されたり戯れたりするなど、じつにスピード感のある多彩なパフォーマンスを展開する。
それはやはり一種の演劇的表現としてたいへんおもしろい。しかし、状況や小道具と登場人物との対話と同時に、首藤の独白的なソロダンスもぜひ観たかった。首藤のダンサーとしての豊かな表現力を遺憾なく発揮したダンスを、特に意識することなく期待してしまっていたのである。これはやはりパントマイムのソロ作品であって、ダンスとはまた異なったヴォキャブラリーで語られており、非常に興味深かった。
(2011年6月17日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ)

撮影:MITSUO
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