ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.05.10]

瑞々しいゴールディング&上野、大人の魅力を感じたゼレンスキー&小出

Natalia Makarova “La Bayadere”: The Tokyo Ballet
ナタリア・マカロワ演出・振付『ラ・バヤデール』
東京バレエ団

東京バレエ団が、ナタリア・マカロワ版の『ラ・バヤデール』を再演した。プティパのオリジナルに基づきマカロワが改訂した名作『ラ・バヤデール』を、2009年、東京バレエ団がゲストダンサーを招かずに団として初演を飾ったことは記憶に新しい。
今回は戦士ソロル役にシュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルと、ミハイロフスキー・バレエのレオニード・サラファーノフを招き、神殿の舞姫・ニキヤ役の上野水香と小出領子とそれぞれ組むのが話題だった。だが、フォーゲルは東日本大震災の影響を懸念するドイツ政府の渡航自粛勧告によりバレエ団の許可が得られないため、サラファーノフは脚のケガのため、そろって降板するという事態になった。結局、オランダ国立バレエ団のマシュー・ゴールディングとノヴォシビルスク・バレエのイーゴリ・ゼレンスキーが代役を務めて事なきを得た。急な共演にもかかわらず、ゴールディング&上野組は若々しい輝きで、ゼレンスキー&小出組は大人の味わいで魅了し、期待をはるかに上回る成果を収めた。

tokyo1105b01.jpg

初日に踊ったのはゴールディングと上野。1985年カナダ生まれのゴールディングは、2009年、アメリカン・バレエ・シアターからオランダ国立バレエ団にプリンシパルとして移籍した若手。白い衣装で颯爽と登場したゴールディングは、すらりと長身でプロポーションにも恵まれ、見るからにダンスール・ノーブル。テクニックも確かで、宙を舞うようなしなやかな跳躍に力強いピルエット、フィニッシュもきれいに決まり、見ていて気持ち良い。マイムも丁寧でわかりやすかった。サポートも巧みで、長身の上野をしっかり受け止め、高々とリフトした。身体的に上野との釣り合いも良く、相性も良さそうだ。
ゴールディングは、ニキヤに愛を誓いながら、ラジャの娘・ガムザッティの美しさにも惹かれてしまい、二人の女性の間で揺れるソロルの姿を、救い難いがどうしようもないと自然体で伝えていたように思う。婚約の祝宴でガムザッティと去る時も、毒蛇にかまれたニキヤが気になるというように振りむいてみせた。
ニキヤ役の上野は舞姫らしいエキゾティックな雰囲気を漂わせて登場。愛の告白をする大僧正とのやりとりは生硬な印象を受けたが、ソロルとの逢い引きでは心の高揚をジャンプで伝え、ガムザッティとソロルの婚約の祝宴でのソロでは見事なバランスに心の内をのぞかせ、「影の王国」では透明感のある踊りを見せた。背中での演技もこなれてきただけに、これで、もっとしっとりと情感を表現できればと思う。

tokyo1105b04.jpg

2日目はゼレンスキーと小出のペア。マリインスキー・バレエのプリンシパルとして人気を博したゼレンスキーは、2006年からノヴォシビルスク・バレエの芸術監督兼ダンサーとして活躍中の大ベテラン。青い衣装で登場した時は、デザインのせいか少々スリム感に欠けるように見えた。だが、流麗なマネージュや力強い回転技など、脚さばきはさすがだった。それ以上に感心したのがサポートで、勢いよく飛び込んでくる小出を抱き止めて軽々とリフトし、絶えず相手を引き立てるなど、見事なパートナーシップだった。
ゼレンスキーのソロルは、ニキヤを愛しながらガムザッティの美しさにも魅せられてしまい、ラジャの権力に逆らうことなどできはしないといった、ある種の諦念を感じさせた。だからか、婚約の祝宴で、ガムザッティの手を取る時、一度ためらいを見せた後は、毒蛇にかまれたニキヤを振り返ることなく去っていった。婚礼に臨む時も、仕方なく定めを受け入れるような演技だった。
小出にとってニキヤは初役だが、入念な解釈がうかがえた。聖火の前では清澄さを、ソロルとの逢い引きではなまめかしさを表出し、婚約の祝宴でのソロでは、悲哀感を滲ませた踊りと花篭を受けてからの心弾ませた踊りを対比させるなど、感情表現が豊かだった。もちろんテクニックも安定していて、「影の王国」でも端整な踊りを見せた。
 

tokyo1105b03.jpg

ガムザッティは両日、田中結子が踊った。ソロルとの縁を切るようニキヤに迫るシーンではもっと迫力が欲しかったが、ニキヤは消されるべきと心に決めた場面には凄みを感じた。婚約の祝宴では、華やかなテクニックを披露して勝ち誇ったように喜びを伝えていたし、婚礼の場での、愁いを帯びたソロも印象に残った。
大僧正は初日が後藤晴雄、2日目が柄本武尊。後藤はニキヤに心乱される様をストレートに演じていたが、柄本はこの役には少々若すぎたようだ。苦行僧の長・マグダヴェーヤは初日の高橋竜太と2日目の松下裕次ともども、思い切りのよいジャンプや荒々しいダンスを見せたが、高橋のほうが役作りはこなれていた。松下は初日に踊ったブロンズ像が素晴らしく、強靭な跳躍を含めコントロールも巧みに高度な技を難なく披露した。
2日目にブロンズ像を踊った井上良太も鮮やかな技で圧倒したが、緊張のためか硬い感じがした。まだ若いので、今後が楽しみだ。群舞では、第1幕の苦行僧たちによる荒々しくもパワフルな踊りが見せ場を築き、対照的に「影の王国」では精霊たちが精緻なアンサンブルを奏でた。
(2011年4月13日、14日 東京文化会館)

tokyo1105b02.jpg tokyo1105b05.jpg tokyo1105b06.jpg

撮影:Kiyonori Hasegawa
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。