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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.02.10]

小林ひかるがニキヤを踊った新国立劇場の『ラ・バヤデール』

牧阿佐美:改訂振付・演出『ラ・バヤデール』
新国立劇場バレエ団
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英国ロイヤル・バレエ団のファースト・ソリスト、小林ひかるがゲスト出演してニキヤを踊った新国立劇場バレエ団の『ラ・バヤデール』。ソロルはデニス・マトヴィエンコ、ガムザッティは厚木三杏だった。
小林ひかるは、出演予定だったスヴェトラーナ・ザハロワに代わって長丁場を立派に踊りきった。愛し裏切られ、悲しい死を経て、神の高みへと向うという、深い情感と気高い心情の舞踊表現を要求される難しい役柄である。
09年11月には、既にロイヤル・バレエ団の主役としてコヴェント・ガーデンの檜舞台にオーロラ・デビュ−を果たしている小林ひかるは、当然だが安定感のある舞台だった。無駄なく過剰に走らずしかしはっきりと明快な表情と動きで、観客に物語がきちんと伝わっていくのが分かる。
宮殿の中庭の花籠を抱えた踊りは素晴らしかった。ラジャー(逸見智彦)の陰謀により花籠に隠された毒蛇に咬まれると、邪念を抱いているハイ・ブラーミン(森田健太郎)に解毒剤を差し出されるが、愛を失った虚しい生に固執することなく、万座の中で潔く死を選ぶ、というニキヤという登場人物の最大の見せ場を見事に演じた。演出・改訂振付の牧阿佐美の趣旨にかなった説得力のある演技だった。全編を通して、動きと演技のバランスもしっかりとしていて丁寧だったと思う。

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ただ敢えて言うと、バランスが良すぎるともいえるかもしれない。物語の流れにピタッとはまっていて、バレリーナ小林の個性的な表現が見えにくいように思った。どこかで観客の胸に生涯消えない刻印を印してほしい、とも思った。それは妙なる音楽を奏でるようなアームスでもいいし、取り押さえなければ舞い上がってしまうような軽さでもいい、あるいは空しく散っていく花弁の悲哀を表す一瞬の表情でもいい、などと勝手に夢想した。むろん今後はさらに主役のキャリアを重ねていくのだから、バレリーナ小林ひかるの姿は世界の舞台に浮かび上がってくるはずだ。大いに期待したい。

ソロルのマトヴィエンコはさすが。見事なオーラを輝かせて闊達に踊った。ガムザッティの厚木も堂々とした踊りで良かった。この3人のダンサーの踊りと演技を構成することは、なかなか演出家としての力量が必要だろうと推察する。しかし新国立劇場バレエ団の『ラ・バヤデール』は、踊られるれるたびに素晴らしいコール・ド・バレエとともに充実してきていると思う。さらに再演を重ねて欲しいレパートリーである。
(2011年1月15日 新国立劇場オペラパレス)

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撮影:瀬戸秀美
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