ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.01.11]

矢内原美邦が振付けたチェーホフの『桜の園』

矢内原美邦 振付・演出『桜の園〜いちご新聞から〜』
「あうるすぽっとチェーホフフェスティバル2010」
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矢内原美邦が「あうるすぽっとチェーホフフェスティバル」に参加して、ダンス『桜の園〜いちご新聞から〜』を創った。
数人の女性ダンサーが小さな指人形ようなものを掲げながら登場して、子供身体というのだろうか、地団駄を踏みながら走り回り、時折、いっせいに「イェーイ!」と歓声をあげる。背景には白いパーテーションが並べられていて、ダンサーが出入りしたり、その間でディナーする人々が垣間見えたり、映像が写されたりする。映像は主として外の光景で、雪景色の中に巨大な鹿がじっとこちらを見つめていたり、虎が闊歩していたりして、生命の環境を象徴するかのようだった。

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ダンサーの一人が「どっちに行ったらいいんですか」と叫ぶとたちまち伝染して、次々と疑問の言葉が発せられて、その都度一定の方向に向かってダーッと集団移動する。概ね子供たちがなにかの衝動に駈られて闇雲に動き、身体からその衝動が抜けるまで繰り返す、といった動きで構成されている。それは、今そこにある、という存在感がしだいに消えていく兆しに対する表現ということなのだろうか。
しかしその衝動は、岬に打ち寄せる波頭のように形は変わっても、いつ終わるとも知れない。もちろん時系列で展開するドラマではないが、舞台上で脈打つ時間をどこにみればいいのか、私はそこが少々とらえがたかった。

速いテンポで激しく動いてもアンサンブルが乱れないダンサーたちはもちろんだが、演劇的に使われた音楽や一見タトゥを思わせる衣裳、堂々と明快で具象的な映像などどれをとってもレベルの高い舞台だと思う。白いパーテーションに光を当ててシルエットを使い、雪景色の中の群像を浮かび上がらせた演出も効果的で良かった。プログラムではチェーホフをダンスに表すことに苦悩したと、率直に語られていたが、好印象の舞台に仕上がっていた。
(2010年12月10日 あうるすぽっと)

写真:(C) Nobutaka Satoh
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