ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.01.11]
新年明けましておめでとうございます。 今年は彩の国さいたま芸術劇場、オーチャードホール、東京芸術劇場などが改修のために休館します。海外でもベルリンのスターツ・オーパーが改修中ですし、マリインスキー劇場は改修期間中の舞台を確保するために、新しい劇場を建設中でオープンは2012年になると言われています。パリ・オペラ座やロイヤル・オペラ・ハウス、ミラノ・スカラ座、リンカーン・センターなどは既に改修を終えています。世界中の劇場がリニューアルされ、芸術監督の世代交代などもすすむと、新しいバレエ、ダンスの時代が花開くことになるのでしょうか。

小野絢子の踊りに旬の輝き、アシュトン版『シンデレラ』

フレデリック・アシュトン振付『シンデレラ』
新国立劇場バレエ団
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新国立劇場の『シンデレラ』は、今回上演から<アシュトンの>という掛かり言葉が付けられた。それはもちろん、新国立劇場バレエ団の芸術監督でもあるデヴィッド・ビントレーの振付による『シンデレラ』が、2010年11月に彼の本拠地バーミンガム・ヒポロドームで世界初演されることになっていたからであろう。
またやはり昨年4月には、コヴェント・ガーデンで吉田都が英国ロイヤル・バレエ団とのさよなら公演に、このアシュトン版『シンデレラ』を踊ったことも記憶に新しい。
アシュトン版は1948年に英国人が振付けた最初の全幕バレエとして初演され、アシュトン自身とロバート・ヘルプマンが醜い義理の姉たちを踊って一世を風靡したことは良く知られている。現在の英国ロイヤル・バレエ団のヴァージョンは、アシュトン生誕100周年を記してウェンディ・エリス・サムスが監修・演出しており、新国立劇場バレエ団にも彼女が指導を行っている。ちなみに、このヴァージョンの初演では、アシュトンに薫陶を受けたアンソニー・ダウエルとウェイン・スリープが義理の姉たちを踊った。

開幕から姦しい義理の姉たち(マシモ・アクリ、高木裕次)が様々のステップ繰り返している中、シンデレラ(小野絢子)が母の思い出に胸を熱くしている。すると、老婆に身をやつした仙女(本島美和)がすっとまさに魔法のように登場する。この出がじつに良かった。暑苦しい現実から幻想へと知らず知らずに転位する、奇跡が生まれるファンタジーに相応しい見事な演出だった。
小野絢子は新国立劇場バレエ団のプリンシパルとして、ますます磨きがかかってきた。主役としていくつかの経験を積み、落ち着いた舞台で技術的にも安定感があり、しかも魅力的。ただ敢えて言わせてもらうとすれば、もう少し表情の細かい変化が明らかになるようになれば、いっそう人物像の彫りが深まるだろう。例えば、あくまでも敢えて言わせてもらうのだが、ラストの貧しい服装で初めて王子と対面したシーンなどは、充分に演じられているとは思うが、あるいはもう少しはっきりとした表現があっても良かったのではないだろうか。観客の胸に迫る羞じらいと喜びのせめぎあい、といった表情がくっきりと欲しいとも思った。そうすると義理の姉たちと抱擁し合う気持が、さらにさらに深いものとなったに違いない。
今はまさに旬の若さがすべてを輝かせているが、さらにいっそう深い情感の表出にもチャレンジしてもらいたい。

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そして今さらながらではあるが、プロコフィエフの音楽の雄弁さには圧倒された。それだけに振付・演出は、ダンスが単なる当て振りにならないように苦労させられたに違いない。その点でもアシュトンの振付は素晴らしいが、ここでも敢えて言わせてもらえば、義理の姉たちの大仰な振りはいささか品位に欠けていないか。特にラストの突然現れた王子に慌てた義理の姉たちが下着をみせるギャグなどには、観客としてカリカチュアされた表現にもうひとつノルことができなかった。アシュトンは、当時ロンドンで人気のあったミュージックホールのイメージを援用して、観客にサービスしたということだろうが、それもそうした時代背景があり、アシュトン自身とヘルプマンという希代の名優が踊ったからこそ効果的だったのだ。そのことを後世のバレエ・マスターたちは肝に命じるべきではないか。
英国であるいはヨーロッパで最も定評のあるアシュトン版を熟知しているビントレー(義理の姉たちを踊ったこともある)が、新たにプロコフィエフの『シンデレラ』を振付けたひとつの誘因がそうしたことにもあるのではないか、と私は秘かに思っている。
前回に続いて道化を踊った八幡がよく雰囲気を掴んで舞台全体を盛り上げていて印象に残った。
(2010年12月3日 新国立劇場オペラパレス)

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撮影:瀬戸秀美
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