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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.12.10]

ビントレー監督の新シーズンが『ペンギン・カフェ』ほかで開幕

フォーキン振付『火の鳥』 バランシン振付『シンフォニー・イン・C』
ビントレー振付『ペンギン・カフェ』
新国立劇場バレエ団
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デヴィッド・ビントレーが新国立劇場の芸術監督に就任した最初のシーズンが開幕した。
ビントレーのイニシアティブによって組まれたプログラム第1弾はトリプルビル。フォーキンの『火の鳥』バランシンの『シンフォニー・イン・C』ビントレーの『ペンギン・カフェ』だった。初演から今年で100年を迎えた『火の鳥』を起点として、現代までを俯瞰する3作品、とプログラミングの趣旨をビントレーは述べている。

ミハイル・フォーキン振付、イーゴリ・ストラヴィンスキー音楽の『火の鳥』は福岡雄大の王子、川村真樹の火の鳥、湯川麻美子の王女というキャスト。
『火の鳥』は、バレエ・リュス最初のオリジナル作品として上演された。ロシアの代表的な民話として知られるこの題材を採り上げたのは、当時のロシア芸術の神秘主義的傾向が見てとられる。しかしこの作品も何回か観てきたためだろうか、『春の祭典』のような強烈な印象は受けない。
冒険を好み好奇心旺盛な王子と不死の魔王カスチェイの操る妖精の群舞の対決からも、あまり強烈なインパクトは受けなかった。意外とスマートに踊られ演じられていた。

『シンフォニー・イン・C』はジョルジュ・ビゼーの音楽にジョージ・バランシンが振付けたもの。第1楽章のプリンシパルが長田佳世と福岡雄大。終盤はたいしたダンスがなかったとはいえ『火の鳥』の王子役に続いての出演である。25分の休憩があるので若いし身体的には問題ないのかもしれない。
第2楽章はスローな難しい踊りが続く。このプリンシパルは小野絢子と富川祐樹だった。小野は富川の丁寧なサポートにも助けられて見事に美しいバランス技を連発して場内を唸らせた。第3楽章は酒井はなと芳賀望。酒井は余裕綽々、芳賀とも息を合わせて軽々と踊った。終局に向かう第4楽章は本島美和とマイレン・トウレバノフ。追いかけられるような曲調にのって踊り、懸命に舞台全体のバランスを保持した。現在、NYCBはいろいろな意味においてやや停滞していると思われるから、21世紀ほんとうのバランシンは東京で踊られている、と評価されるようになってもらいたい。

『ペンギンカフェ』はサイモン・ジェフスの「ペンギン・カフェ・オーケストラ」の曲にビントレーが振付け、1988年に英国ロイヤル・バレエ団により初演された。
ここでは、まず、ペンギンの動きをステップにしたビントレーの慧眼に敬意を表したい。さすがにアシュトン以来、被り物バレエの本場、英国バレエの中核で長期に渡って活躍している舞踊家である。
ペンギン・カフェの主人であるペンギン(大西洋に棲息していた原初のペンギンは1844年絶滅したという)を始め、ユタのオオツノヒツジ、テキサスのカンガルーネズミ、豚鼻スカンクにつくノミ、ケープヤマシマウマ、熱帯雨林の家族、ブラジルのウーリーモンキー、といった絶滅危惧種が次々に登場して、軽快なステップを披露する。
真剣に想うと相当ブラックなのだが、決してそうは感じさせないユーモアのセンスが抜群、じつに洒脱で洗練されたダンス。それをバレエで実現したことは、サイモン・ジェフスの音楽があったとはいえ、たいへん素晴らしいことである。21世紀の核心を突いた20世紀の傑作というべきだろう。
ここでもブラジルのウーリーモンキーを福岡雄大が踊っていた。様々な事情があるのだろうが、3作品連続出演して役へのコンセントレーションが薄れることはないのだろうか。
(2010年11月2日 新国立劇場 オペラ劇場)

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撮影:鹿摩隆司
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