ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.12.10]
舞踊界にもコレクターがいる。往年の名花の直筆サインであったり、舞踊史に名を残す舞台のブログラムであったり、さまざまな希少、貴重なものがコレクションの対象となり、サザビーズやクリスティーズなどのオークションに供されることもある。あるいはサンクトペテルブルクの有名な古書店などでは、さまざまなそうしたアイテムが店頭を賑わしている。また、バレエの映像などを執拗に収集している人もいる。日本にはいまだアーカイブが整備されていないので、貴重な映像を保持していることがそれなりの優越感となるらしい。ウイリアム・ワイラー監督は映画『コレクター』でそした心理を追求している。ともあれ、舞踊の研究とコレクションは別次元であることだけは確かだろう。

美しく華やかだった松岡梨絵のオデット、オディール

熊川哲也:演出・再振付『白鳥の湖』
K-BALLET COMPANY
tokyo1012c01.jpg

熊川哲也率いるK-BALLT COMPANYの『白鳥の湖』を松岡梨絵のオデット/オディール、宮尾俊太郎のジークフリード王子で観た。
熊川版『白鳥の湖』は2003年に初演され朝日舞台芸術賞を受賞している。前回の再演は2008年の5月。今回と主役は同じコンビだったが、ロットバルトが遅沢佑介に代わっていた。

松岡梨絵は一段と美しく華やかに踊った。総てにバランスがよくただずまいにも品がある。歯切れの良い動きと無駄のない抑制の利いた演技で、オデットとオディールのコントラストも前回よりもくっきりと描かれていると感じた。作中の人物像をそつなくクールにまとめていて安定感のある踊りだった。ただちょっとだけ言わしてもらえば、表情にもう少しだけ変化があってもいいのではないだろうか。
たとえば2幕のアダージョでは、深い悲しみの中に微かな希望を見出だした喜びの兆しが表れてもいいのではないか、とも思った。登場人物の感情の錯綜した起伏がさらに深まって表現されると、美しさにいっそうの陰影が現れるに違いない。

tokyo1012c02.jpg

宮尾は演技への配慮はよく行き届いていると思う。膝の怪我からの本格的に復帰した舞台だったが、今後も若さあふれる動きの活達さ力強さを見せて欲しい。これからも大いに期待したい。
橋本直樹が王子の友人ベンノを踊ってとても良い印象を残した。セルゲイエフ版などに登場する道化などよりも舞台全体をソフィステケイトして、観客に悲劇の情感を解きほぐしてみせ、登場人物の心理をいっそう細やかに浮かび上がらせる味のある役割である。橋本は舞台全体の流れに沿うように丁寧に踊った。ただ王子とベンノは友人として共感する面も多いはずだから、もう少しさり気ない交流があってもいいのではないだろうか、とも感じられた。

熊川の演出・振付は、プロローグでオデットが捉えられて白鳥に変身させられるシーンを加えたり、ロットバルトにもたっぷりとヴァリエーションを踊らせるなど分かりやすく、しかもダンスの流れがスムーズでテンポがいい。3幕のディヴェルテスマンを2曲にしてサスペンスを盛り上げる工夫も成功している。当初は二つのヴァージョンを上演していることもあったが、再演のたびに磨きをかけて完成度の高い舞台となった。
(2010年19月30日 Bunkamura オーチャードホール)

撮影:Gonbi Ayumu
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。