ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.12.10]

ダンスで綴られたベジャールの創作の軌跡と心の旅路

Maurice Bejart “Le Tour du Monde en 80 Minutes”  Bejart Ballet Lausanne
モーリス・ベジャール振付『80分間世界一周』 モーリス・ベジャール・バレエ団

巨匠ベジャール亡き後も、芸術監督ジル・ロマンの下で活発に活動を続けるモーリス・ベジャール・バレエ団が2年振りに来日し、ベジャールの未完の作品をロマンが演出した『80分間世界一周』を上演した。世界を巡ったベジャールがヴェルヌの冒険小説『80日間世界一周』に着想を得たもので、様々な土地や都市をバレエで描きながら、そこに自身の心の旅路と創作の軌跡をダブらせている。

全体は16場で構成され、実際の上演時間は95分。最初の〈イントロダクション〉の場はスタジオで、稽古着姿で集まった男性ダンサーたちがベジャールの出世作となった『春の祭典』の冒頭部分のリハーサルを始めるもの。
ダンサーの一人で「旅人」のマルコ・メレンダはベジャールの分身なのか、この後も所々に現れる。ベジャールの曽祖父がアフリカ人ということで、旅はアフリカからスタートし、地中海を巡り、ウィーンを経てアジアに至り、北極を通ってアメリカへ渡り、南米で終わる。自作の『タラサ、我らの海』や『恋する兵士』『アレポ』などから引用したダンスが随所に散りばめられている。音楽はモーツァルトやワーグナーから各国の伝統音楽まで多彩で、録音テープとパーカッションやキーボード奏者によるパワフルな生演奏とで進行した。

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〈セネガル〉では黄色いワンピースのリズ・ロペスがダイナミックにソロを踊り、〈エジプト〉では緑のハーレムパンツのジュリアン・ファヴローが颯爽としたソロを見せ、〈ギリシャ〉では女性陣の爽やかな群舞が際立ち、〈ヴェネツィア〉では七色のレオタードをつけた男性たちのアンサンブルと、エリザベット・ロスの清冽なソロと那須野圭右の味のあるソロが対比を成した。〈ウィーン〉では、疾風のように現れた「エジプト王タモス」のジル・ロマンが鋭い足さばきでダンサーたちを蹴散らす様に圧倒された。〈パルジファル〉でカテリーナ・シャルキナとオスカー・シャコンが緊張感溢れるパ・ド・ドゥを紡いだが、そのシルエットが拡大されて背後に投影され、幻想的な雰囲気をもたらした。

〈北極〉では南極にいるはずのペンギンたちがひょうきんな振る舞いで笑いを誘った。〈サンフランシスコ〉ではショー的なタップ・ダンスや、強烈な個性を発揮した『ハムレット』のジュリオ・アロザレーナのソロなど、印象に残る場面が続いた。
最後の〈ブラジル〉では、ダンサーたちがソロを踊り継ぎながら、パーカッションが叩き出すサンバのリズムにのって皆が陽気に踊る大団円で幕を閉じた。ベジャールが80歳になったのを記念して着手した作品だが、衰えることのない旺盛な好奇心や洒脱なセンスが息づいているのが見て取れた。自身の歩みを回想するように連ねられたシーンは、どこか懐かしくも思えた。

今回はこの遺作のほかに、ベジャールの『火の鳥』と『3人のソナタ』、そしてロマンが2008年に振り付けた『アリア』から成るプログラムも上演した。巨匠の伝統を継承するだけでなく、新たな作品にも挑む姿勢を明確に打ち出したベジャール・バレエ団。これからさらにどう発展するか、見守りたい。
(2010年11月8日 東京文化会館)

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photo:Kiyonori Hasegawa
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