ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.11.10]

衝動的な動きで踊られたショッキングなダンス

Peeping Tom " 32, rue Vandenbranden "
ピーピング・トム『ヴァンデンブランデン通り32番地』
tokyo1011h01.jpg

ピーピング・トムの『ヴァンデンブランデン通り32番地』は雪の中。下手に一部屋、上手に二部屋が通りに面して建っている。
いくつものトランクをもって、恐らくは長い旅の果てに流れ着いた人たちがいる。ここは吹き溜まりというか番外地らしい。
上手の部屋には、妊娠して男に裏切られ行き場を失ったかのようなお腹のふくれた大きな女、下手の奥のカーテンのついた大きな窓の部屋には若いカップル、手前の小窓の部屋にはアジア人が住んでいるようだ。他にはこの地の果てに堕ちてきた天使のような、時折、動物の剥製を持つシュールなイメージで姿を現し、いつもアリアを歌っている女。妊娠した女とかつて関係のあったらしいもう一人のアジア人などが主要な登場人物である。

tokyo1011h02.jpg

冒頭は、どこかから赤ん坊の声が聞えてくる。そして軒下に花やおもちゃとともに捨てられている赤ん坊を見つけて、雪に包んで縁の下に放り込む、という恐ろしい嬰児殺しのシーンだった。
若いカップルは怒鳴り合う声を響かせて大喧嘩したかと思うと、夜の営みの甘い声を広場にまで洩らしたりする。それに妊娠した女が反応して、大騒動が起きる。
みんな人生で大きな問題に突き当たり、普通の生活には耐えることのできない屈折を抱えているだけに、動きは衝動的で激越、半端なところがまったくない。可能な限りの身体の力を使ってのたうち回る。中でもカップルの女性のサーカスばりの柔軟でしなやかな動きと、アジア人ダンサーの千変万化の「へん顔」はまさに驚異だった。
カップルの男は銃を持ってうろついたり、アジア人はカラオケに没入して歌ったり、自分の写真を表に貼って電話番号を付けたりと、これといったストーリーはない。妊娠した女に関係があったと思われるアジア人がありとあらゆる奇態をみせた果てに、冒頭の捨て子とともに置かれていた花やおもちゃ差し出し、さらには自身から切り出した血みどろのハートまですべてを捧げるが受け入れられない。そして同胞たちにささやかな友情を示されて「アイアム・ソウ・ハッピィ」と呟きなながら息絶える。すると部屋の灯りがひとつずつ消えてこの番外地のドラマが終わった。
ピーピング・トムは昨年2月に初来日して、泥土に埋もれた部屋の中で死後の世界が展開すると言う衝撃的な『Le Sous Sol/土の下』を上演した。この作品は安部公房原作の映画『砂の女』に触発されたそうだが、今回は深沢七郎の原作を今村昌平が監督して映画化した『楢山節考』にインスピレーションを得たという。日本の現代文学(ちょっと古いが)に共感するところがあるのだろうか。
(2010年10月25日 世田谷パブッリクシアター)

tokyo1011h03.jpg tokyo1011h04.jpg

撮影:松田純一
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。