ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.11.10]

激動の時代を背景に力強く描かれたドラマティック・バレエ『レ・ミゼラブル』

望月則彦:演出・振付『Les Misérables レ・ミゼラブル』
谷桃子バレエ団
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谷桃子バレエ団は創立60周年記念公演シリーズの最後の作品として、望月則彦演出・振付・選曲の『レ・ミゼラブル』を再演した。
プログラムには2003年の初演時の演出ノートをそのまま掲載し、同時に再演にあたって心がけたことも記している。こうして作品の歴史を明示することは、作品自体を大切にすることであると同時に、観客に対しても誠実な態度を示していることになる。日本のバレエ界でも経済性など種々の事情はあるとは思われるが、創作作品の独立性をきちんと確保し、上演の歴史も常に明らかにしてもらいたい。そしてゆくゆくは、外国のカンパニーにも上演される舞台を創ることを目指してもらいたい。

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望月の『レ・ミゼラブル』は、フランス革命前夜の揺れ動く時代と擾乱が勃発して混乱に陥る時の流れを軸として、姉の子供のために一片のパンを盗んで刑に服することになったジャン・バルジャンと、彼を捕らえたジャヴェール警部の対照的な人生が展開する。罪と正義、厳正な法秩序と慈しむ愛が激しく対立し、権力の構図も変転する。そうした中で登場人物の苦悩し葛藤する心理が描かれ、その背後からは人間の社会というものの不条理が浮かび上がる。登場人物の性格や立場もきちんと描き分けられているし、それぞれのシーンで描こうとするテーマも明快だった。
とりわけ、シルエットを効果的に使った革命動乱シーンは、運命の無情を詩的情趣に溶かし込んだ印象深い名演出だった。音楽は望月が選曲したものを、やや劇伴的ではあるが、ダンスシーンにしっかりと構成しており、完成度の高い舞台だった。ただダンス表現について敢えていうとするなら、もう少しパ・ド・ドゥが語って欲しかった。むろん群舞表現はエネルギーを湛え力強く創られていたが、警部とジャン・バルジャン、あるいは終幕近くのキャンドルをもったコゼットとマリユスのシーンなどパ・ド・ドゥ表現としては、絶好の素材のように思えたのだが。
 

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ジャン・バルジャンは斎藤拓が好演だった。罪人となって絶望にうちひしがれていた自分に、神父が示した無償の慈しみに衝撃を受け、純粋な子供に対して自分の醜さを映して深く恥、人間性を取り戻すジャン・バルジャンの人生を、心理に沿って丁寧に演じた。人生の年輪を重ねた老け役にも臆するところがなく、死臭漂う動乱の最中に瀕死のマリユスを救出する姿には、老いても波瀾の人生を生き抜いた人物ならではの強かな逞しさを感じさせた。
高部尚子のコゼットは可憐だったが、もっともっと踊るシーンがあったらよかったとも思った。伊藤範子は薄幸の女性ファンティーヌを情感を込めて演じて、悲劇に美しい一輪の花を咲かせた。そして両日ともジャヴェール警部に扮した三木雄馬は、ルジマトフばりの身のこなしで終始この悲劇の一方をリードしてドラマを盛り上げた。
いつも感じることだが、このバレエ団は主役ばかりでなく、コール・ドにも一体感があって安心して楽しく鑑賞できる。
カーテンコールでは、創立60周年記念公演が無事終了し、次の活動に向かうという芸術監督、谷桃子の意欲的な挨拶があり大きな喝采が巻き起こった。
(2010年10月16日 ゆうぽうとホール)

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撮影:スタッフ・テス 谷岡秀昌
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