ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.10.12]

繊細に魂を響き合わせたコジョカルとコボーの『ジゼル』

Leonid Lavrovsky “Giselle” The Tokyo Ballet
レオニード・ラヴロフスキー振付『ジゼル』 東京バレエ団
tokyo1010b01.jpg

東京バレエ団が、英国ロイヤル・バレエ団のアリーナ・コジョカルとヨハン・コボーを招いて、ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』を上演した。一昨年はマラーホフとルグリを、昨年はフォーゲルをアルブレヒト役に招き、東京バレエ団のプリンシパルと共演させたが、今回はジゼルにもゲストを招いた。客演したコジョカルとコボーは私生活でもパートナーを組んでいるだけに、どのような舞台をみせてくれるか期待された。

コジョカルは髪をきっちりアップにせず下ろしているため、動くたびに柔らかく揺れる髪が可愛らしい。彼女は一つ一つの仕草を台詞のように演じてみせた。アルブレヒトの姿を探す様、向き合った時の恥じらいなどに、恋する喜びが溢れでていた。
コボーは、そんなジゼルを優しく包みこんだ。二人の愛を花で占うジゼルに合わせて一緒にワクワクしてみせるでもなく、覚めた目で見やるでもなく、静かに見守り、愛は自分たちで決めることとでもいうふうに花弁を一枚摘んでお告げを「吉」に変え、ジゼルの心をつかんだ。
自分の身分が明らかにされた後、コボーは困惑しつつ婚約者のバチルドに慇懃に接する一方で、ジゼルに背を向けながら、その背でジゼルの動きをとらえていた。コジョカルは、正気を失っていく様を大袈裟に取り乱したりせず演じたが、むしろジゼルの悲痛さが際立った。コボーは心の動揺をストレートに表し、息絶えたジゼルに激しく、しがみついた。
 

tokyo1010b02.jpg

第2幕では、ジゼルへの真の愛に目覚め、悔恨の情に苦しむアルブレヒトと、ウィリになりながらもアルブレヒトへの愛を封印しきれないジゼルの、互いに相手を思いやる心が全てを浄化するように響き合った。コジョカルがアルブレヒトの脇をかすめて通り過ぎる時、自分の姿は見えなくても気配でわかると信じているようだったし、コボーもその気配を察知して彼女をとらえ、デュエットへとつなげたが、そんな二人の息遣いは見事に合致していた。
コジョカルは、ふわり軽やかに舞い、静止のポーズは美しく長く保ち、精緻な踊りを見せた。コボーも安定感のある踊りで、特にアントルシャ・シスでの高い跳躍と美しい足さばきが絶品だった。ジゼルが墓の中に消えた後、アルブレヒトは小さな花が落ちているのを手に取る。ジセルとの愛の証のような3枚の花弁を見て、そこにジゼルの心を感じ、改めて彼女を慈しむコボーの姿が余韻を残した。
『ジゼル』は東京バレエ団が繰り返し上演している演目だけに、こなれた舞台だった。ヒラリオンの後藤晴雄は、ジゼルに対する武骨な感情吐露や、アルブレヒトへの敵愾心をむき出しにする様などが練り上げられ、役を深めたように感じた。ミルタは田中結子。登場シーンのパ・ド・ブレが滑らかで美しく、続くソロでは、冷たさだけでなく、ウィリになってしまった哀しみも滲ませていたように感じた。群舞では、やはり第2幕のバレエ・ブランが幻想的で美しかった。
(2010年9月8日 ゆうぽうとホール)