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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.06.10]

白川女、印象派、サティの音楽など豊穣なイメージで描かれた『屏風』

有馬龍子 演出・振付、安達哲治、有馬えり子 再振付『屏風』
レオ・スターツ振付『祭りの夜』
有馬龍子バレエ団創立60周年記念特別公演II東京公演
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レオ・スターツ振付『祭りの夜』
京都に本拠を置く有馬龍子バレエ団が創立60周年記念特別公演として、東京と京都で公演を行った。一部上演演目が変わっているので東京からはレオ・スターツ振付の『祭りの夜』と有馬龍子振付の『屏風』をご紹介する。
『祭りの夜』は、1900年代初頭にパリ・オペラ座でカルロッタ・ザンベリの相手役として活躍し、後にバレエ・マスターも務めたレオ・スターツが1925年に振付けた作品。音楽はレオ・ドリーブが『泉』のために作った曲にミンクスの曲を加えて編成されている。
祭りの夜のほのかな灯りの下に、若い男性と女性が集って踊り、いくつかのカップルができていく、といったありふれた情景のスケッチ。これといった展開はないが、色彩と光、軽やかなステップと洗練されたフォーメーションで見せる、フランス風の瀟酒なバレエである。パリ・オペラ座バレエ団では、エトワールからエトワールへと今日まで踊り継がれ、バレエ学校のレパートリーともなっている。

『屏風』は故有馬龍子が構成・演出・振付、初演を踊った安達哲治と有馬えり子が再振付けして上演した。音楽はエリック・サティのピアノ曲と藤舎呂悦(小鼓)藤舎名生(笛)、美術は皆川千恵子である。
小泉八雲の小品に基づいて振付けられたバレエで、印象派の芸術や花売りの白川女のイメージが念頭にあったと言われるが、まず、ヴィジュアルが美しい。名所図絵風の書き割りに、和風のパンツと着物をアレンジしたトップを着けたすっきりとした印象のダンサーたちを、時折、シルエットのように浮かび上がらせる。それだけで物語の背景を語り、淡く黄昏がかった雰囲気がじつに良かった。
祭りの日にごく普通の屏風にわけもなく魅入られてしまった青年が、恋人の制止も聞かずにその魔界に陥り、幻想の女と出会って破滅する、というシプルなストーリーだが、サティの音楽の乱調子がじつに効果的だった。やや冗長に感じられる部分もなかったわけではないが、振りも的確でケレン味なく整っていた。
びょうぶの女と主人公の太一がからむクライマックス・シーンは、幻想と現実の境界が自ずと消えていく中でパ・ド・ドゥが踊られ、ヤンヤン・タンの優れたプロポーションが現実を超えた世界へ観客を誘った。太一の無意識の意識が見事に浮かび上がったシーンである。
『若者と死』の主題を彷彿させるところもあるが、冒頭から一人タバコをくゆらす若者に実存的にアプローチするわけではなく、祭りのシーンから始まる『屏風』は、集落の中に偏在する「魔」と遭遇した若者を生を追っていく展開である。また『ラ・シルフィード』を思い起こすところもあるが、幻影が美しい女性の姿をして現れているわけではなく、誰も興味を示さない屏風に何故か惹かれていくところから物語は始まっている。こうしたことはたいへん興味深いものがある。
「日本人の心を描くバレエ」を目指したという振付家の天性の才能に、今更ながらではあるが、少し触れることができた舞台であった。
(2010年5月9日 大田区民ホール・アプリコ)

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