ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.06.10]

森下洋子が鮮やかに描いたジュリエット

清水哲太郎 演出・振付『ロミオとジュリエット』
松山バレエ団
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松山バレエ団の清水哲太郎演出・振付による『ロミオとジュリエット』は、ロミオのソロから始まり、セットが開くとヴェローナの街の広場が見える。キャピュレット、モンタギュー家の激しい対立がリアルな迫力で迫ってくる。プロコフィエフの曲は、軽快なリズムを刻みながらじつは暴力的対立の残酷さを効果的に際立たせるように作られていることが感じられる。そういう演出になっていた。

森下洋子のジュリエットは少女そのもの。ヴィヴィッドに変化する表情や動きの初々しさの表現は、経験によって強化されて形成されるものかもしれないが、佇まいまでもが完璧な少女を表現していることは驚異的と言わざるを得ない。

そしてプロコフィエフの『ロミオとジュリエット』は、マキューシオの死を境として荘厳な悲劇的色彩を一気に高める。
乳母と戯れて時を費やすイノセントな少女だったジュリエットは、最愛の人その人が兄を殺し、救いなき悲劇をもたらすという運命の皮肉に襲われる。跡継ぎを失ったキャピュレット家は短兵急にパリスとの結婚を迫る。父はもちろん母も乳母にさえも心を許すことができないジュリエットは、かつては想像することすらなかった孤独に陥れられる。

修道士ロレンスから一時的に仮死状態になりやがて目覚める、という薬を受け取る。すると今度は、聖女のようにパリスとの結婚を受け入れ、死をも厭わぬ危険な賭けに敢然と身を投じる。この一連のジュリエットの恐れを知らぬ勇敢な行動は、森下洋子の優れた演技により、女性だけがもっている神秘的とも感じられる高い精神性を巧まずして表すことに成功していた。
(2010年5月4日 オーチャードホール)

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photos by A・I
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