ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.03.10]

少年兵の残虐な体験を描いた池田扶美代ほかの『ナイン・フィンガー』

Fumiyo Ikeda+Alain Platel+Benjamin Verdonk
NINE FINGER
池田扶美代+アラン・プラテル+ベンヤミン・ヴォルドンク
『ナイン・フィンガー』
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ベジャールのダンス・スクール「ムードラ」でアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと出会って、一緒にローザスを結成して活動してきた池田扶美代。彼女を中心に、アンヌ・テレサが直接関わるわけではないがローザスの支援を受けて作品を創る、という企画の第1作が『ナイン・フィンガー』となった。
池田の他に来日公演を何度か行っているアラン・プラテルと、美術活動や俳優のほかにも、イラク戦争に反対するために豚小屋に暮す、といった変わったパフォーマンスも行う前衛芸術家、ベンヤミン・ヴォルドンクが参加することになった。

素材は、ヴォルドンクが「頭から離れない」といった、両親がナイジェリア人でニューヨークに育った若い小説家ウゾディマ・イウェアラの処女作『ビーツ・オブ・ノー・ネーション(国籍無き野獣)』を使っている。内容は残虐な行動を強いられるゲリラ少年兵の独白によるフィクションだそうだ。
 

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装置は、スタンドマイク一本と段ボールひと箱とその中からひっ張り出してきたマットレスのみ。ヴォルドンクが残虐な戦場の体験の断片を切れ切れに叫びながら、マイクを使ったり、這いずり回ったり、銃を手にしたり、自分を傷つけたり支離滅裂に動き回る。戦場の少年兵士さながら、顔を黒く塗り目だけ光らせ異様な風体のわりには弱々しく、極限に追いつめられた状況が日常となっている。
音は通してジャングルの鳥のさえずりが流れているのだが、時折、甘い歌声も流れた。
素朴でナイーブな少年に襲いかかった世界中から顧みられることもないふきだまりの世界。残忍で暴力的な現実がヴォルドンクの背中にへばりついて決して離れようとしない。
池田は少年兵の極限状況を辺り構わず当たり散らすような動きに傷めつけられながら、応える手がかりを探していく。しだいに時には母のように、あるいは影となって少年兵の傷んだ心を浮かび上がらせようとする。
そこに魂の救済があるのかどうかは分からないが、現在の地球が背負っているひとつの現実を観客に提示していたことは間違いない。
(2010年2月6日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

(C)池上直哉
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