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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.03.10]

東京バレエ団が創立45周年記念の締めくくりに『シルヴィア』を初演

フレデリック・アシュトン演出・振付『シルヴィア』
東京バレエ団
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東京バレエ団が『シルヴィア』を団として初演し、創立45周年記念シリーズの掉尾を飾った。1952年、フレデリック・アシュトンがマーゴ・フォンテインのために振付けた作品で、長く忘れられていたが2004年、振付家の生誕百年記念にクリストファー・ニュートンが英国ロイヤル・バレエ団で復元した。
ギリシャ神話を基に、ドリーブの音楽を用い、狩りと純潔の女神ディアナに仕えるニンフで愛を放棄したシルヴィアが、彼女を慕う羊飼いアミンタと結ばれるまでを、恋の成就を助ける愛の神エロスやシルヴィアに横恋慕する狩人オリオンをからめて描いたもの。この作品で評価を得たベルリン国立バレエ団のポリーナ・セミオノワとアメリカン・バレエ・シアターのマルセロ・ゴメスが客演した初日と、2日目の田中結子と木村和夫が踊った〈マイ・キャスト シリーズ〉を観た。
 

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セミオノワは、恵まれた容姿をフルに生かして場面ごとに変わるシルヴィアの心情を表現した。第1幕では、弓を手にした勇ましいジャンプや力強いアラベスクで男勝りの凛々しさを印象づけた。胸にエロスの矢を射られてアミンタを恋するようになるが、そんな自分の心の変化に戸惑う様や以前はなかったしおらしさを、パ・ド・ブーレで表情豊かに伝えた。
第2幕では、自分を拉致したオリオンを酔い潰れさせようと、蠱惑的な眼差しや艶っぽさを湛えた精妙なステップでオリオンを翻弄。高度な技を散りばめた第3幕のアミンタとのパ・ド・ドゥでは、揺るぐことなくポアントで跳び続け、爽快にジャンプし、愛する喜びを全身で謳いあげた。ゴメスは、たくましい身体から精悍さが匂い立つ。第1幕で、アミンタの朴訥さを芝居で表わしながら、高いジャンプにシルヴィアへの思いをこめ、軽やかに着地。スローな振りでは抜群の安定感を見せた。第3幕のパ・ド・ドゥでは、勢いよく飛び込んでくるセミオノワをしっかり受け止め、高々とリフトするなど、息の合ったところを見せた。自身も、空中で片ひざを屈伸するダイナミックな跳躍などを披露した。
 

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2日目にシルヴィアを踊った若手の田中は大健闘。力強いジャンプやアラベスクと、エロスの矢を受けた後の優しさとの対比も良く表現していたし、第3幕のパ・ド・ドゥも手堅く踊った。第2幕でオリオンを惑わすところでも達者な足さばきを見せたが、もっとしたたかさを出してもよさそうだ。アミンタ役を務めたベテランの木村は、一つ一つの動きを確かめるように丁寧にこなし、切れ味の鋭いジャンプをみせた。若い田中を全面的にサポートし引き立てようとする姿勢が好ましく映った。初役なため、二人ともまだ硬さを残していたが、踊り込めばもっと大胆な演技が期待できそうだ。
オリオンを踊ったのは高岸直樹(初日)と後藤晴雄。悪役ぶりを発揮してはいたが、もっと大仰に、もっとふてぶてしくても良さそうだ。エロス役は後藤(初日)と平野玲。冒頭では長い間、祠の中で白塗りの裸像のように立ったまま。アミンタの命を救おうと変装して現れ、黒いマントから白い手と足先だけをのぞかせ、おしゃべりするように動かす様は、特に後藤の演技が滑稽で笑わせた。ドラマの流れを作る重要な役だが踊りの見せ場は少なく、白い出で立ちも手伝って、全体から浮き上がりがちなのは仕方ないのだろう。
オリオンの二人の奴隷を演じた高橋竜太と岡崎隼也(両日)は、わずかにズレた所があったもののコミカルにデュオを踊った。バッカスの祭りで山羊のパ・ド・ドゥを踊った河合眞里と松下裕次(初日)と高村順子と井上良太のペアは、可愛らしい仕草で微笑みを誘った。祭りにはテレプシコールとアポロのペアなども登場するが、彼らのためのパ・ド・ドゥがないのを寂しく感じた。シルヴィアのお付きや森の精たち、農民たちの群舞は、それぞれ特色を出して舞台を彩っていた。この公演に、創立45周年を経て更に躍進しようとする東京バレエ団の意気込みを見る思いがした。
(2010年2月26日、27日、東京文化会館)

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photo:Kiyonori Hasegawa
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