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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.11.10]

谷桃子バレエ団が創り上げた美しい救済のドラマ『ジゼル』

谷桃子バレエ団『ジゼル』
ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパ:原振付、谷桃子:再演出
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谷桃子バレエ団が創立60周年記念公演の第3弾として『ジゼル』を上演した。よく知られるように、谷桃子は、1957年に『ジゼル』全幕を初演して評判となり、数多くの再演を重ねて当たり役となった。そして現役引退公演もこの『ジゼル』を踊った。
実際、谷桃子バレエ団の『ジゼル』からは、谷桃子が積み重ねてきた試行錯誤の無数の軌跡が舞台に描かれていて、登場人物の背後に浮かび上がっているかのようにも感じられた。
たとえば第1幕の狂乱のシーンにしても、ジゼルが正気を失ってついには死にいたるまでの動きが、じつに綿密に練り上げられている。
惑乱するジゼルを固唾を呑んで取り囲むコール・ド、母ベルタ、ヒラリオン、そしてアルブレヒトとその従者ウィルフリード、さらにバチルド姫とクーランド大公まで、この事件に様々の角度から関与する登場人物たちの配置。そして全体の移動と個々の動きがしっかりと把握されていて、劇的な高まりを生み出すために見事にコントロールされている。

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現実の現場を見たわけではないが、主演者自身が振付家であることから、リハーサルで繰り返された試行錯誤を本番の舞台で試し、さらに改良を加えて練り上げられていった舞台と見えた。
ジゼルの狂死に衝撃を受けたアルブレヒトにしても、ベルタに払いのけられても払いのけられても抱き寄せようとするが、従者のウィルフリードに強く促されて一度は立ち上がるが、奇跡が起きて息を吹き返しているかもしれないとばかり再び身をよせようとする。型にはめることなく、登場人物の気持ちを忠実に描いて悲劇を浮かび上がらせている。ダンサーの経験に多少の物足りなさがなかったわけではないが、密度の濃い見事な演出だった。

第2幕もよく整えられていて無駄がない。
ミルタを踊った朝枝めぐみは、厳格さを強調しているわけではないがアルブレヒトを決して許さず、宿命の神の微笑を垣間見せるかのよう。表現のバランスが良く安定しており、ウィリの女王ミルタの存在感をみせた。アルブレヒトの斉藤拓は、第1幕ではやや線の細さを感じさせたが、第2幕ではジゼルへの愛と悔恨をしっかりと踊り、高い跳躍が美しかった。そして永橋あゆみのジゼルは、少し力はいっていたようにも感じられたが、大きなラインでアルブレヒトへの悲しい愛を見事に造型した。
終盤の演出もしっかりと組み立てられていて、朝の光に消えていくジゼルが墓前にそっと添える一輪が白く輝いて美しく、この悲劇のすべてを一瞬のうちに救済し、観客にさわやかな余韻を残した。
(2009年10月10日 新国立劇場中劇場)

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撮影:スタッフ・テス 飯田耕治
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