ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.05.11]

黒田育世率いるBATIKが笠井叡振付の『ボレロ』を踊った

笠井叡 構成・演出・振付『another BATIK~バビロンの丘に行く~』
黒田育世 BATIK
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BATIKを率いる黒田育世が念願の笠井叡の振付を踊った。
舞台には烏が一羽、鳥かごに入れられて宙空に吊るされて弱いスポットが当たっている。それ以外はすべて暗黒の空間。黒いチュチュを付けたBATIKのダンサーたちが無音の中、静かに登場する。ゆっくりした動きがしばらく続き、突然、生死の境界に身を投げ出したような凄絶な絶叫が連続し、松本じろ&スカンクのロック・ミュージックの轟音が響く。第1章<バースデー I>のオープニングだ。

グループごとの激しい動きとスローな動きがコントラストを見せながら、ダンスは進行していく。天衣無縫のBATIKの動き----動きの軌跡が何かを伝えるのではなく、動きの激しさで何かを伝えようとするBATIKらしいダンス。
第2章にあたる<BATIK バビロン>では、音楽は一転してシューベルトの『未完成交響曲』になる。
全員白のキャミソールに着替えたBATIKは、見事にこの<テュオニソス交響曲>をシンフォニックに踊る。それはバッカスの娘たちのバビロンの饗宴であり、現代日本に蘇ったダンカン・ダンスのようでもあった。
古代バビロン帝国の巨大な石柱が崩壊し、<バースデーII>のダンスが始まった。
そして、この身体の激越さを競うBATIKの動きを、どうやってあの無限のグラデーションを奏でる『ボレロ』の動きへと変換していくのだろうか。先の読めない激しいBATIKのダンスが続く。
烏は、松本じろの創る轟音にも帝国の崩壊にも一向に動じることなく、鳥かごの中で餌をついばんでいる。

「年老いた烏が小石に止まった。それでお終い」と女性が登場し、詩句を詠う。お終いの言葉が消えると既に、あの『ボレロ』の冒頭の小さな音が聞え始めていた。
崩壊したバビロンの廃墟の中で、ゆっくりと近付いてくる波のような『ボレロ』のリズムを感じながら、渾身の踊りがクライマックスを迎えると黒田はフロアに倒れ込んだ。息を切らし痙攣する黒田の身体を万雷の拍手が包む。
カーテンコールには、黒ずくめの衣裳に長髪を烏の尾のようにポニーテールに纏めた笠井叡が姿を現し、観客に応えた。
熟達した詩人振付家が、生命力溢れる黒田育世のダンスを薬籠中のものとして、象徴的表現を巧みに使って演出。そしてコントラストのエッジを利かせた見事な舞台を創った。
(2009年3月27日 世田谷パブリックシアター)