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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.02.10]

マラーホフが王子もカラボスも踊ったーー東京バレエ団『眠れる森の美女』

Vladimir Malakhov:The Sleeping Beauty 東京バレエ団『眠れる森の美女』

 東京バレエ団によるマラーホフ版『眠れる森の美女』の再演。マラーホフはヴィシニョーワがオーロラで客演した日はデジレ王子を、吉岡美佳と後藤晴雄が主演した日はカラボスを、それぞれ踊った。“貴公子”がこの悪者役で新たな魅力を発揮した二日目を観た。
マラーホフは、狩りの場や「パノラマ」を省き、全体を二幕仕立てにまとめた。舞台はバラの花が咲き乱れる庭園が基調で、衣装は優雅なデザインや奇抜な装飾など、雑多なスタイルが混ざった独創的なもの。だから、いつの時代、何処の国ともわからない。

 カラボスは男性が演じるが、その存在には特別な意味合いがこめられているようで、登場の仕方にも工夫がうかがえた。オーロラ誕生の祝宴で、バラの 生垣に吊るされた球形の植え込みが一つずつ半回転すると、裏側にいる妖精たちが一人ずつ舞台に降り立つのだが、カラボスは、吊るされたまま取り残されてい た中央の球から姿を現すのだ。つまり、誰もその存在に気付かなかっただけで、最初からそこにいて一部始終を見ていたのである。
一幕目が始まる前、オーロラの成長を見守るリラの精と、隙あればオーロラに近づこうとするカラボスが幕前で相対した。まるで、善と悪とは対だとでも言う ように。また、バラの花は美しいが、その棘でオーロラはカラボスの呪いにかかるのだから、幸と不幸は紙一重とも言っているわけだ。そして終幕、カラボスは 華やかな結婚式に歩み入り、一瞬のうちに全てを静止させた。だがリラの精に制され、恨めしそうに退場するが、いつ、どんなふうにまた現れるか、わかりませ んよ、という含みは残された。

  マラーホフは、隈取りのようなメイクにミディ丈のワンピース、ヒールの靴で登場。舞台狭しと闊歩し、物凄い形相で嘲り笑い、憤怒したが、スカートからのぞ く脚は意外ときゃしゃで、猛々しさの中にも艶っぽい女らしさを造形していた。余興でトウシューズをはき、バレリーナ顔負けのポアントワークを披露したマ ラーホフなればこそ、だろう。
登場のシーンで、吉岡は弾けんばかりに跳びはね、後藤も勢いのあるジュテを見せたが、共に万全ではなかったようだ。グラン・パ・ド・ドゥではサポート・ ミスも目立ち、今一つ盛り上がりに欠けた。むしろ結婚式の場での井脇幸江と木村和夫が、シンデレラとフォーチュン王子のデュオを、端正に格調高く踊って見 応えがあった。リラの精の田中結子は、マラーホフと丁々発止とまではいかなくても、丁寧な身のこなしや足さばきでドラマを推し進めた。ただ、正月気分が抜 け切らなかったのか、この日の公演では、東京バレエ団らしからぬほころびが散見されたのは残念だった。
(2009年1月9日、東京文化会館)