ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.02.10]

川口ゆい演出・振付『HEREing Loss ---私の孵る場所』

 整理券を持って並んでいると、まず、寝台席の20名が入場する。しばらく待って私たち普通席の観客が入場すると、寝台席の人たちは、頭を中央に向けて左右に川の字に並んで横になり、各自に与えられた寝袋に入っている。それぞれの耳にはイヤホーンがセットされていた。
中央部分にはスペースがあり、天井からはナイフやフォーク、小さなスピーカーが吊るされ、所々に小型のスポットライトが取り付けられている。
 暗闇の中から川口ゆいの囁き声が、睡魔に誘われた寝台席の人々の身体から抜け出ようとしている意識に語りかける。
「ここはどこ?」
「私は誰?」
眠りに関する話もささやきかけられてきた。
寝台席の人たちの夢と二人のダンサー(川口ゆいとヤエル・シュネル)の共演を、パイプ椅子に座った普通席の観客が観る、というのが全体の構図のようだ。
寝台席は各回20名に限定され、料金も200円ほど高い。当初どちらの席にするか迷ったが、やはり寝台席にすれば良かったか、という思いがその時も少し 残っていた。(夢の中で川口ゆいと共演できるのであれば・・・・、実際、寝台席の観客が寝袋の乱れなどを川口に直してもらったりしているのを見て、彼らが セレヴに見えた)
ダンサーは、吊るされていたナイフやフォークを使って寝台席の人々に果物を一切れずつ食べさせたり、戯れたりするパフォーマンスや、壁を使ったダンスなどを見せる。
やがて寝台席の観客の耳からイヤホーンが外され、ダンサーたちは暗闇の中に消えていった。

 ナイフやフォークあるいは寝袋、そして睡眠といったごくありふれた日常性を感じさせるものと、パフォーマンスという作為的な行為が渾然と身体を離れた意識の中で交わるような、不思議な鑑賞体験だった。
集団で眠りの中に誘い込まれていく、ということはどこかエロティックでもあり、ささやかながら陶酔感を味わうものだとも思った。
なかなかユニークなパフォーマンスだった。

 川口ゆいは、現在、ベルリンで活動し、ジャズピアニスト高瀬アキとデュオ活動をしている。昨年は新国立劇場のDANCE EXHIBITIONで『REM-The Black Cat』を再演した。
ヤエル・シュネルはイスラエル出身で、バットシェバ舞踊団で、ナハリン、プレルジョカージュ、フォーサイス作品などを踊った。現在はサシャ・ヴァルツ&ゲスツに在籍している。
(2008年12月26日 横浜赤レンガ倉庫1号館)