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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.09.10]

小林紀子バレエ・シアターの『ラ・シルフィード』ほか

 小林紀子バレエ・シアターが、英国ロイヤル・バレエで2005年に新制作した『ラ・シルフィード』全幕と「マクミラン・ダイヴァーツ」を上演した。
「マクミラン・ダイヴァーツ」は、『ロメオとジュリエット』バルコニーのパ・ド・ドゥ(プロコフィエフ曲)『エリート・シンコペーション』(スコット・ ジョップリン曲)『マイヤリング』ステファニーのパ・ド・ドゥ(リスト曲)で構成した、マクミランのパ・ド・ドゥ集である。
『ラ・シルフィード』は、ブノンヴィルの原振付に基づいてデンマーク出身の英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、ヨハン・コポーが演出・振付けた舞台 で、音楽はルーヴェンスキョルド。シルフは島添亮子、ジェームスにはABTのプリンシパル、デヴィッド・ホールバーグ、エフィは新国立劇場バレエ団のソリ ストでもある小野絢子、グァーンはやはり新国立劇場バレエ団のソリスト、中村誠というなかなか魅力的なキャスティングだった。

  コポー版は、コミカルな味を利かせ日常的な感覚を採りいれ、荒唐無稽な物語にリアルな印象を与えている。ジェームスは幻想の中で見たシルフがあまりに美し かったので、老いの醜さを露にしたマッジに嫌悪感を感じてしまう。また、結婚という人生の重要なポイントにさしかかった、ジェームスの心理的な要因も作用 していたかもしれない。

 第1幕のシルフが2度目に姿を現して、それまで半信半疑だったジェームスは完全に魅了される。すると、エ フィとの結婚の可能性が少し見えてきたグァーンがソロを踊る。続いてシルフとの出会いの喜びの気持ちを周囲に隠して踊るジェームスのソロが素晴らしかっ た。ホールバーグはパリ・オペラ座バレエ学校でクロード・ベッシーに学んだ後に、ABTに入団している。少し硬い感じもするが、踊りはじつに正確でしっか りしていて、表現力も豊か、とても初役とは思えなかった。
そして島添亮子のシルフが一段と素晴らしい。やわらかな空気に舞う綿毛のように微妙に揺れるアームス。腕の動きたおやかさと背中に着けた小さな透明の羽 だけで充分以上にシルフを表現している。その美しさが印象的だったために、ジェームスがマッジの呪いのかかったスカーフでシルフの腕を絡めとろうとした 時、場内は固唾を呑んで静まり返った。
コポーの演出は手際がよく、物語も分かりやすく納得できた。しかし、最後のシーンでマッジがこれでもか、とジェームスを痛めつけるのは気になった。ここ までやらなくともシルフの身体が宙に戻っていくだけで、ジェームスは人生の破滅を知る。マッジがあまりに懲罰を加えると魔女物語になり、若さと老いのコン トラストも弱まってしまうのではないか、と少々心配になった。
エフィの小野絢子はよく踊った。最後のグァーンの結婚を受け入れるシーンでは複雑な表情を浮かべながらも、愛されることの喜びが控え目に伝わってきた。 ジュリエット役はもうひとつだったが、きっと演技の多いエフィ役が気がかりだったのだろう。グァーンの中村誠もよかった。意外とコミカルな味もだせる貴重 なダンサーだと思った。
久しぶりに充実した『ラ・シルフィード』を楽しむことができ、帰路の足取りも思わず軽やかになった。
(2008年8月23日、ゆうぽうとホール)