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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.09.10]

東京バレエ団『ドン・キホーテ』

 ポリーナ・セミオノワのキトリ、アンドレイ・ウヴァーロフのバジルという夢のような組み合わせで、東京バレエ団がワシーリエフ版『ドン・キホー テ』を上演した。マラーホフの秘蔵っ子であるセミオノワがキトリを演じるのは初めてで、またウヴァーロフは彼女がボリショイ・バレエ学校時代の憧れの先輩 で、今回が初共演と、話題性には事欠かない。実際、二人の卓越した演技で、初日の舞台は大いに盛り上がった。
二幕仕立てのワシーリエフ版は、多彩な踊りで舞台を満たすだけでなく、マイムと踊りを上手く溶け合わせ、脇役や街の人々も細かな芝居でドラマを脈打たせて、舞台に隙を作らない。
幕開けはドン・キホーテの書斎。キトリはバジルがドン・キホーテのひげを剃り終わるのを待ちきれずに邪魔するが、ドン・キホーテは鏡に映った彼女を理想 のドゥルシネア姫と思い込む。巧みなプロローグだ。セミオノワは、キトリの愛くるしさ、いたずらだか憎めない素直さ、バジルへのあふれる恋心など、すべて を伝えた。長身で、脚もすらりと長いウヴァーロフは、達者な演技で応えたが、床屋とは思えないほどカッコ良かった。
続く〈街かど〉での二人の恋のさや当ては、いかにも若々しく、サラッと陽気に演じられた。セミオノワは、若さ一杯のジャンプやはずむような回転を見せ、 対するウヴァーロフは、背を魅惑的に反らせたポーズやバネを利かせたジャンプを決め、セミオノワを誇らしげにリフトしてもみせた。若さゆえの奔放さを表出 していたとはいえ、セミオノワには品の良さを、ウヴァーロフには理知的なものを感じた。一転して〈夢〉の場では、セミオノワは典雅にパを造形してみせ、 〈結婚式〉でのグラン・パ・ド・ドゥでは片足バランスを微動だにせず長く保ち、フェッテではダブルを規則正しく、美しく入れ続けた。ウヴァーロフのダイナ ミックなマネージュや変化に富んだ回転技には風格を感じた。
エスパーダの木村和夫とメルセデスの井脇幸江が演じた恋のさや当てからは、キトリたちとは異なる大人のムードが漂ってきた。特に木村は、ウヴァーロフに 刺激されたのか、力強く脚を振り上げ、気迫のこもった跳躍で存在感を示した。ジプシー娘の吉岡美佳ら、他のダンサーも素晴らしかったが、中でもガマーシュ の平野玲による茶茶を入れるような滑稽な演技や、ジプシーの勇壮な男性群舞が印象に残った。
(2008年8月20日、東京文化会館)